第11回 『ジプシー・キャラバン』


ルーツにジプシー音楽を持つ、4つの国の5つのバンド、総勢35名の一行が、6週間かけて北米の都市を廻る「 ジプシー・キャラバン 」が催された。それは音楽のうねりを通じてロマ/ジプシーへの理解を深めるだけでなく、彼ら自身がわかり合うための旅でもあった。

1月26日(土)2013年 アムネスティ映画祭上映作品
映画祭ウェブページ
『ジプシー・キャラバン』公式ホームページ

流浪の民・ロマに与えられた、音楽という贈り物

昨年の最終回では、オーケストラでの演奏を通じて貧困と暴力から子どもや若者を救う、ベネズエラの「スラム・シンフォニー」を描いた『魂の教育 エル・システマ』を取り上げました。

今年はじめの回も、別の面から音楽のちからを教えてくれるロードムービー『ジプシー・キャラバン』をご紹介します!

彼らの音楽は、情熱的でかつどこか物悲しい響きが印象的です。

サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」、リストの「ハンガリー狂詩曲」、ブラームスの「ハンガリー舞曲」などにも取り入れられ、

ヨーロッパの音楽に大きな影響力を及ぼしてきました。「ジプシー・キングス」というフランスのバンドが一世を風靡したこともあります。

祖国と権力も持たないロマが生きるために与えられたのは、音楽だったと言えるかもしれません。

民族の誇りを届けることで、一体感が生まれる

日本では「ジプシー」と言った方が一般的にわかりやすいかもしれません。

「さすらう人」という意味で音楽やファッションなどで用いられることがありますが、これはヨーロッパでは差別語と捉えられ、民族を指すときには「ロマ」とするのが一般的です。

ロマにとって、音楽がどれほど心の拠り所になっているかを見事に描いている音楽ドキュメンタリーが、この『ジプシー・キャラバン』です。

インドのラジャスタン、旧ユーゴスラビアのマケドニア、東ヨーロッパのルーマニア、そしてスペインの4ヵ国の5つのバンド・総勢35名のロマのアーチストたちが、6週間かけてアメリカ・カナダをまわったツアーに密着。

ツアーのステージの熱気と、初めて出会ったミュージシャン同士の親しげなオフ・ステージの交流を伝えると同時に、それぞれの音楽が生まれた土地を訪ねてルーツを探るドキュメンタリー映画です。

ステージを観るよりも、ドライブ感をもって、彼らの姿を立体的に捉えられるかもしれません。

旧くはインドのラジャスタンから流れ着いてきたとされ、中央・東ヨーロッパを中心に1000万人規模にもなると推定される流浪の民・ロマ。

同じロマとは言っても、東はインド、西はスペインと大きく幅があり、ツアー開始直後は彼らの間にはどこかぎこちなさが見られました。でも、満席の観客たちに民族の誇りを届け、共鳴し合ううちに、ミュージシャン同士での「一体感」が生まれていくのです。

「ロマのふるさと」のバンドが心の拠り所に

インドのラジャスタン出身で、バンド名の「マハラジャ」のような衣装に身を包んだアーチストたちは、他のバンドがヨーロッパ出身という中にあって、最初はやや「異質」でした。

彼らのような楽士や踊り手はインドのカースト社会では最下層のカーストにあたり、「業」のようなものに縛られながら音楽を生業にしています。

「なぜロマの肌は浅黒いの?」という問いかけに、「私たちは太陽が降り注ぐ国から生まれてきた。だから黒いのよ」と答えるシーンが映画にあります。

他のミュージシャンたちから「ロマ民族のふるさと」出身の彼らに寄せる尊敬と共感は目を見張るものがあり、彼らの存在は次第に皆にとって心の拠り所になっていきます。

ツアーの日を追うごとに、お互いに影響し合い、東から西へと連なる音楽を観客に届けるようになります。ロマの音楽は、移動によってその土地の音楽を吸収しながら独自のものを作り上げていったといいますが、彼らの歌、踊りには根底に同じ血が流れていることがよく伝わってきます。

(マハラジャの演奏はこちらからどうぞ)

魂の叫びこそが、パワーの源泉

どのグループも、こぶしのきいた、魂の叫びのような「声」が圧倒的な存在感を持ちます。

迫害と差別こそが、彼らが奏でる音楽のパワーの源泉なのかもしれません。

この映画の原題は『When the Road Bends』。
映画の冒頭で紹介されるロマのことわざ=「曲がりくねった道は、まっすぐには歩けない(You cannot walk straight when the road bends)」にちなんだものです。

差別され、迫害され、まっすぐには歩けない道。

この映画『ジプシー・キャラバン』は曲がりくねった道をわずかでもまっすぐ歩き続けようとした人たちの物語です。とてつもなく大きな悲しみを音楽で吹き飛ばしてしまうエネルギーが映像の隅々にまであふれています。

ああ、音楽ってすごいな、踊りってすごいな、と思うのです。
人々を絶望の淵からこうやって救うことができるのだ、と。

2005年からの「ロマの包摂のための10年」

それにしても。ロマほど、文化的影響力と社会的地位とに大きなギャップがある民族はあまりないのではないでしょうか?

ヨーロッパに行くと、ロマ、いわゆるジプシーの人たちの存在がぐっと迫って見えてきます。

西ヨーロッパの大都会では繁華街で物乞いをする、肌の浅黒い人たちが目につき、強制立ち退きや強制送還される事件が後を絶ちません。

歴史的に差別の対象だったロマの人々をナチス・ドイツが数十万人の単位で虐殺したことも、ユダヤ人のホロコーストに比べて圧倒的に知られていません。

 

私は1999年のコソボ紛争後に、2年間、国連職員としてコソボに駐在していました。

この地でもロマの人々は「セルビア人たちの手先として、アルバニア人への虐待に手を貸した奴ら」として、アルバニア人たちから「復讐」され、虐げられていました。

自身が権力を持たないため、権力者にすり寄るしか生き残る術を持たなかったロマの人々の悲哀に触れる日々でした。

こうした現実を踏まえ、ヨーロッパでは、2005年から2015年までを「ロマの包摂のための10年」と位置付けて、社会の底辺に追いやられがちなロマの人たちを社会に統合しよう、という動きが高まっています。

ロマの人々を対象にした支援プロジェクトには、音楽などの芸術を通じてエンパワーメントにつなげようというものが多く見られます。

「アムネスティ・フィルム・フェスティバル」でご覧あれ!

ロマの人たちへの理解が、音楽の力を借りて日本でもっと深まればいいな、というのが、ロマの人たちに寄り添って支援した私の願いです。


本作は2006年の映画ですが、2008年に日本で劇場公開されたときにはロングランになりました。

音楽を通して人間が生きることの悲しみと喜びをつづったこのロードムービーには、ロマの音楽に魅せられたジョニー・デップも登場します。
この『ジプシー・キャラバン』、都内で開催される「アムネスティ・フィルム・フェスティバル2013」で1月26日(土)に上映され、再びスクリーンで見るチャンスができました。

人権をテーマしたこの映画祭は今年で4回目を迎え、『ジプシー・キャラバン』をはじめ、力作7作品が上映されます。

映画を通して、世界で何が起きているのか、差別とは、尊厳とは、生命とは何かなど、さまざまな角度から人権について考えるのに絶好の機会です!

どうぞ足をお運びください。


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