第10回『魂の教室 エル・システマ~音楽は世界を変える~』


原題『A Slum Symphony』が示すように、スラムに暮らす貧困層の子どもたちで作るシンフォニーがベネズエラにある。「音楽のおかげで、麻薬や暴力などで道を踏み外さずにいられる」と語る子どもたちに、音楽のチカラを感じずにはいられない。

DVD

新進気鋭の指揮者・ドゥダメルを輩出

最近、気になる若手指揮者に、ベネズエラ出身のグスターボ・ドゥダメルがいます。

先日、彼がベルリン・フィルを振っていたコンサートがテレビで放送され、伝統的に重厚なベルリン・フィルの音色に軽やかさと若さが吹き込まれ、「指揮者でこんなにも変わるものなのか」と魅かれたのです。

発売元:アイ・ヴィー・シー 価格:2940円(税込)

調べてみると、指揮のあいだ笑みを絶やさないドゥダメルは、ベネズエラで1975年に発足した青少年のための音楽教育制度「エル・システマ」で学んだことがわかりました。

「この『エル・システマ』って、何?」とどんどん調べるうちに行き当たったのが、この活動を描いた『魂の教室 エル・システマ~音楽は世界を変える~』(日本語版DVD)。

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原題は、『A Slum Symphony』、5年の歳月をかけて、エル・システマで音楽を心の拠り所として学ぶスラムの子どもたちの姿を追ったイタリアのドキュメンタリー作品で、日本では過去にNHK「BS世界のドキュメンタリー」で放送されています。

目標は「音楽で子どもたちを貧困と犯罪から救う」こと

カメラは、掘立小屋が斜面を覆い尽くす、夜のスラムを映し出します。

Tシャツ姿や野球帽をかぶった男たちは銃を持ち、躊躇することなくパンパンと撃ちまくります。

スラムの曲がりくねった道は一度迷い込んだら二度と出てこられない迷路のようで、そのあちこちでは通りがかりの人々が恐喝されています。

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こうした緊張感に日々さらされている子どもたちは、どんな風に育ってしまうのでしょうか?

非衛生きわまりない生活環境と蟻地獄のような貧困のスパイラル、道を踏みはずすのにこれほど適した場所はそうないでしょう。

こうした中、エル・システマの目指すゴールは、ずばり「音楽で子どもたちを貧困と犯罪から救う」こと。

「オーケストラでの合奏を通じて、生きる目的や喜び、協調性を育み、若者の人材育成を進めよう」というエル・システマの取り組みには、30年間で100万人の子どもたちが参加しています。

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無料で音楽を習え、楽器も借りられるとあって、通ってくる子どもたちのうち3分の2は、貧困地域や孤児院からやってくるそうです。

「エル・システマ」は国内の音楽愛好家や教育機関、果ては長年ベルリン・フィルを振った指揮者のクラウディオ・アバドら、世界的に著名な音楽家らの賛同と支援を受けて発展し、国境を越えて25以上の国々に拡がっています。

日本にも今年「エル・システマジャパン」が設立され、音楽を通じて子どもたちに自己実現の機会を提供しています。

現在の活動の中心は、原発事故で生活がおびやかされた福島県相馬地域の子どもたちを対象にした「相馬子どもオーケストラ」です。

チェロで苦しみや悲しみを忘れられた

音楽は音を楽しむもの、美しいもの、そして心を安らかにしてくれるものです。

暴力が横行する環境では余計にそうでしょう。

映画『エル・システマ』に登場するホナタンは、家族が麻薬中毒になり、兄は何度も銃で襲われ、左足を切断しなければなりませんでした。

ホナタンは、こうした八方ふさがりの状況に「自分は音楽に助けられた。チェロのおかげで苦しみや悲しみを忘れることができた」と語り、愛おしそうにチェロを撫でます。

家族の暮らしを助けるために軍に志願したホナタンは「もっとチェロを極めたい」と休みを取ってはオーケストラの練習に出て、どこに行っても寸暇を惜しんで楽譜を読み込みます。

やがて軍を除隊し、ベネズエラの首都カラカスの音楽学校に進み、「エル・システマ」の子どもたちにチェロを教えることで、自分を救ってくれた音楽に恩返しをしています。

生き生きと演奏する子どもたち

どん底を見た子どもたちは強いなあ、と思わされたのが、アバドという世界的な指揮者が見学に来てレッスンを受けるときにも、子どもたちは全く委縮せず、その顔は音楽を奏でる歓びに満ち溢れていることです。

「音楽って楽しい!」「このオーケストラで演奏できて、幸せ!」と顔が輝いているのです。

「エル・システマ」切っての精鋭グループ「シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ」は、アバド、ラトル、バレンボイム、アルゲリッチなどの巨匠たちから絶賛され、彼らが指導役を買って出ています。

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ほめて育てることで伸びる才能

こうしたいきいきとした子どもたちの様子は、エル・システマの「ほめて育てる」という姿勢が影響しているのかもしれません。

ストーリーの中でも、古巣でタクトを取るドゥダメルが、バラバラな演奏に対して決して眉をひそめることなく、「もっと闘牛士みたいに勇ましくやってみようか」とジェスチャーを交えて、笑みを絶やさず指導しているのが印象的でした。

指導する音楽家たちは皆エル・システマを地域の暴力から隔絶された「サンクチュアリー」として保とうと、子どもたちに愛を傾けます。

音楽だけにとどまらず、子ども一人ひとりの家庭環境にも目配りしながら指導するのには感服します。先生たちの献身に支えられたエル・システマは、先日NHKの「地球イチバン」という番組でも「33万人が参加する、地球でイチバン大きなオーケストラ教室」として取り上げられ、音楽の可能性を教えてくれました(2012年10月18日放送回)。

南米流の「年越しコンサート」も

YouTubeでは、エル・システマから育った「シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ」の大みそかコンサートの模様が見られます。

レオナード・バーンスタインの「マンボ!」を、途中で立ち上がったり体を揺らしたりの振りを付けて演じ、観客も大興奮。クラシックがこんなに楽しくなるなんて!

第九もいいですが、聴くだけでウキウキし、オーケストラと観客が一体になる南米・ベネズエラ流の大みそかコンサート。

映画とともにどうぞお楽しみください!


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