第12回 『人生、ここにあり!』


やればできる! 障害もこれ、個性。精神障害を持つ人たちが施設を出て社会でのびのびと自己実現し、これを受け止める懐の深さとおおらかさが社会にほしい。

1月27日(日)「アムネスティ・フィルム・フェスティバル2013」上映作品

『人生、ここにあり!』公式ホームページ

DVD(Happinet/配給:エスパース・サロウ、提供:新日本映画社)

障害も個性のひとつ

「アール・ブリュット」というアートのジャンルがあります。

日本語で「生の芸術」を意味するこのことばは、主に伝統的な芸術訓練を受けていない知的障害・精神障害を持つ人々が創作した、既存の芸術の枠にとらわれないアートのことを指します。

かつて、私はパリで日本のアール・ブリュットを紹介する展示会に行ったことがありますが、おびただしい数の「反復」やまるで縄文土器のような「荒々しい野太さ」がとても印象的で、「強烈な個性だ!」と衝撃を受けました。

障害をひとつの個性、特質として逆手にとって、他の人が持ち得ない強みにしているとも感じました。

精神障害者が社会に出る!

この「アール・ブリュット」をあるイタリア映画の中で見付けました。

『人生、ここにあり!』は、精神病院を廃絶する「バザリア法」が1978年に制定されたイタリアを舞台に、精神病院から追い出された「元患者」たちが、一般社会に溶け込んで暮らす、という社会的実験が行われた時代の実話をもとにした人間賛歌です。

舞台は1983年、ミラノ。

主人公の労働組合活動家のネッロはその革新的な考え方ゆえに労働組合から疎まれ、精神病院から追い出された元患者たちでつくる「協同組合」に左遷されてしまいます。

精神病の知識などないネッロでしたが、元患者たちに人間として向き合い、新たな事業を立ち上げるために奮闘します。

病院を出て自由な社会生活を送るどころか、毎日を無気力に過ごしていた元患者たち。彼らがやっているのは、「仕事」とは名ばかりの、「切手貼り」という市からお情けで与えられた「慈善事業」でした。

持ち前の熱血ぶりを発揮せずにいられないネッロは、彼らに「施し」ではなく、「自ら働いてお金を稼ぐこと」を持ち掛け、床板張りの仕事をすることを決めます。

©2008 RIZZOLI FILM

元患者たちはネッロの自宅の床を練習台にして、次第に床板張りの技術を身に付けていきますが、「自立」には程遠い日々。そんなある日、仕事現場で材料の板が足りなくなり、苦肉の策で廃材を使って仕上げたところ、それが大評判になるのです。

これこそ、「アール・ブリュット」!

精神疾患の「弱み」を「強み」にし、これをきっかけに彼らの仕事は180度転換します。

現実社会の反面教師

映画には、社会の枠にとらわれない個性の持ち主のオンパレードです。

 

すぐにキレて、暴力を振るう男。

ガラス細工のように繊細な心の持ち主の青年。

「仲間に溶け込みたい」とは思っても言葉を発することさえできない自閉症の若者。

「彼氏が100人いる」という妄想を持った女。

「UFOが年金を支給してくれる」と信じている男。

几帳面で細かく、人を管理することが大好きな男。

レース・サーキットでの仕事で事故を見過ぎてスピード恐怖症になってしまった男。

©2008 RIZZOLI FILM

ネッロは辛抱強くそんな一人ひとりと信頼関係を築き、それぞれの長所を見て、仕事を適材適所で割り振っていきます。

こんな「ポジティブ・シンカー」が職場にいれば、どんなチームも前向きに成果を出せるような気がします。

 

精神病とその治療をめぐる問題も描き込まれています。

たとえば、「安易な薬漬け」による無気力や様々な障害。

「試行錯誤をおおらかに受け止めてくれる環境」がないこと。

さらには、納期と納期に間に合わなかった時の違約金に追われる「市場の論理」。

そして、精神病患者に対する社会の偏見や無理解。

同質ではない者に対する、社会の無言の圧力。そんな重い現実も、イタリア流のユーモアで笑わせながら見せてくれます。

©2008 RIZZOLI FILM

バザリア法という法律ができて、その結果、元患者たちは社会に出ることを余儀なくされたと言うのに、仕事のクライアントたちに敬遠されることを恐れ、「元精神病患者」ということを隠してビジネスをしているのです。

そんな建前と本音も正直に描いているのが何ともイタリア映画らしくて、憎めません!

 

お金を自分で稼ぎ、薬の量を少しずつ減らしていったことで、元患者たちはセックスにも目覚め、「人を好きになりたい」「物を買いたい」という人間らしい欲求もようやく生まれてきます。

それは、決してハッピーなことばかりではありません。

それでも、イタリアでは、現在では2500の社会連帯組合が存在し、3万人の精神障害者を雇い、人々に雇用と社会の中の役割を提供し続けているのです。

©2008 RIZZOLI FILM

障害者の権利のための国際的な取り決めも

目を世界に転じると、「障害者権利条約」という、あらゆる障害(身体障害、知的障害、精神障害など)を持つ人の人権と尊厳に関する国際的な取り決めが2006年に国連で採択され、2008年に発効しました。

日本は2007年に署名はしていますが、残念ながら、いまだ国会で批准していません。

平たく言えば、この条約が目指すのは、「障害を持つ人を排除しない、平等な社会」。

ユニバーサルデザインなどの「合理的な配慮」を義務づけ、実質的な機会の均等をはかります。そして、基本は、障害者の自律と選択の自由。とかく障壁を放置し、格差をつくり、障害者を隔離しがちな日本の体質からすると、「目からウロコ」的な部分もあるかもしれません。

日本では障害者を「保護」するという上から目線になりがちで、障害者の「権利」からの発想が弱い、という部分もあるでしょう。

難民キャンプをユニバーサルデザインに!

私がUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)で勤務していたとき、この条約ができたことで、障害を持った難民の人たちが使いやすい「ユニバーサルデザインの難民キャンプ」や援助の在り方について議論がされるようになりました。

オフィスでその議論を牽引していたのは、自分自身も事故で片腕・片脚を失ったことで、障害者のニーズが痛いほどわかっているトルコ人の同僚でした。

彼女は、出身国のトルコが、障害者に対してやさしい国になるようにと願い、その後、UNHCRを辞め、トルコの国会議員選挙に出馬し、今は議員として障害者のために奔走中です。

上映はフィルムフェスティバルで

『人生、ここにあり!』は、DVDのほか、人権をテーマに開かれる「アムネスティ・フィルム・フェスティバル」で、2013年1月27日(日)に上映されます。

上映前には、『精神病院を捨てたイタリア 捨てない日本』(岩波書店)などの著書を持つジャーナリストの大熊一夫さんのトークがあり、障害者の置かれた現状について聞いた上でご覧いただけるので、より理解が深まることでしょう!


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