U理論――それは想像を超えた未来への旅。

世界のビジネスリーダーが注目する「変革と学習の理論」の基本を紹介

あなたは仕事や日々の生活の中で、このような経験をしたことがありませんか?

・「今のままではいけない」と思っていながら、何も行動しないまま時が過ぎる。
・組織の改革・改善プロジェクトが、現状維持を望む人たちの抵抗によって失敗した。
・アイデアは出るが実行されない。「現実的な意見」でアイデアが潰される。
・問題を解決しようとしたが、その解決策が別の問題を引き起こしてしまった。
・一人ひとりは優秀で、頑張っているのに、チームとしてはうまく機能しない。

グローバル化や高度情報化、価値観の多様化などの進んだ現代は、とても変化の激しい時代です。それに適応するため、ビジネスの世界でも日々「変化」の必要性が語られています。「このままではいけない」「何らかの変革が必要だ」「イノベーションが求められている」……そんな言葉をよく見聞きしますよね。

変化が求められているのは、ビジネス界だけではありません。経済格差、政治不信、金融危機、気候変動、貧困、失業、高齢化・少子化など、私たちの社会は多くの面で問題を抱えており、「今のままではいけない」状態に陥っています。

しかし、これほどあちこちで「変化」が必要だと叫ばれている一方で、実際に変化(問題解決やイノベーションや改善をもたらす、価値のある変化)を起こすことは容易ではなく、壁に直面することも多いのが現実です。むしろ今日、変革はますます難しくなっているとも言えます。なぜでしょうか?

 

なぜ変革は難しいのか?

ひとつの理由は、今日私たちが直面する問題の多くが、これまで経験したことのないものだからです。気候変動や高齢化、サイバーテロの問題などが典型でしょう。未知の問題ですから、過去の経験がこれまでほど役に立ちません。

また、グローバル化やネットワーク化により、問題の複雑さが増していることも特徴です。ひとつの問題を解決したら、絡み合う別の問題が生じる、といったことがよくあります。問題の原因がどこにあり、何に影響し、どう解決できるのか、簡単には見えません。

そして、もうひとつの決定的な理由は、私たちの内側に――「意識」にあります。

どんな問題も、それが創られたのと同じレベルの意識では、解くことはできない。
――アインシュタイン

民族間の紛争において、武力によって安定が生じたとしても、人々が他民族への憎しみや差別意識を持ち続けていたら、問題は解決したとは言えません。長時間労働によって離職率が高く従業員が疲弊している会社において、ただ人員を補充しても、働き方や企業文化を転換できなければ、いつまでも問題は続くでしょう。

これまでとは異なるレベルの意識を持たなければ、本当の解決は見えてこない。真の変革を起こすには、まず意識の変革が必要である。――こうした洞察のもと、個人・組織・社会の変革プロセスを探究したのが、マサチューセッツ工科大学(MIT)の経営理論家、オットー・シャーマーであり、彼が生み出した変革理論が「U理論(Theory U)」です。

「意識の変革」と言っても、単に気持ちを切り替えるといったことではありません。シャーマーは、認知心理学や哲学などさまざまな分野の知見を踏まえながら、私たちの「ものの考え方」にどんな傾向があるのか、意識はどのような構造を持ち、どのようなプロセスによって変化するのかを深く考察しました。その結果、U字型の図で変革プロセスを説明する体系を作り上げたのです。

 

「過去から学ぶ」ではなく「未来から学ぶ」

U理論は、従来とは異なるレベルの意識によって問題をとらえ、本質的な解を見出すことをめざす変革と学習の理論です。過去の延長線上に未来を見るのではなく、わだかまりのない目で「まさに生まれようとしている未来(出現する未来)」を見出し、それに向かって現実を変革していく発想に立っています。

……と言ってもわかりにくいでしょうか? 同じくMITの上級講師であり世界的なベストセラー『学習する組織』の著者、ピーター・センゲは、U理論のアプローチについて次のように述べています。

有名な学習理論のほとんどは過去から学ぶことに主眼を置いている。つまり、すでに起こってしまったことからどう学べるかに注目するのだ。こうした学び方はつねに重要だが、現代のように大きな変化が生まれつつある時代では、到底それだけでは十分とはいえない。
そこで、まだよく知られていないが新しい学習方法が求められる。シャーマーはこれを「出現する未来から学ぶ」と表現する。出現する未来から学ぶことはイノベーションには不可欠だ。出現する未来から学ぶには直感が必要だ。非常にあいまいかつ不確実な状況を許容し、失敗を恐れないことが求められる。

「過去から学ぶ」ではなく「未来から学ぶ」。こうした考え方で変革に臨むのがU理論なのです。「未来から学ぶ」など、一見非合理で不可能なことと思われるかもしれません。現実に起きていること(ファクト)に基づき、複雑な問題を細かく分けて整理し、論理的に解決策を考えるのが、私たちが(特にビジネスにおいて)慣れ親しんできたアプローチです。しかし、センゲが述べるように、それではもはや不十分であり、考え方を大きく転換する必要があるのです。

 

芸術家のように考える――今見えている範囲を超えて

既存の事実だけに基づいていては、未知の出来事や新たな問題には対応できません。むしろ、過去にとらわれて現在の状況を正しく見られない恐れもありますし、それでは斬新な発想は生まれにくいでしょう。また、問題への解決策が想定外の別の問題を引き起こす、といったことが起こりやすい現代では、「今見えている範囲」だけで考えるのは危険でもあります。

今日の問題に求められているのは、全体的・包括的な視点を持ち、過去や既知の事実の枠や線形の論理にとらわれずに考え、発想することです。より直感的・創造的なアプローチが求められています。多くのビジネスパーソンにはあまり馴染みがないアプローチかもしれません。それはいわば、芸術家のような考え方です。そしてオットー・シャーマーは、変革を起こそうとする人は、誰もが芸術家なのだと言います。

この本は、改革や変化をもたらそうとする個人、グループのリーダー、言い換えれば「芸術家(アーティスト)」のために書かれている。ビジネス界、地域社会、政府、NPOのリーダーや改革者は誰しも「芸術家(アーティスト)」と呼べるのではないか。なぜなら、新しいものを創造し、社会にもたらしているのだから。(『U理論』より)

芸術家のような考え方をするために、必要なことは何でしょうか?

U理論では、まず自分の意識に「盲点」があることを自覚することの必要性が語られます。盲点、すなわち普段は見えていない、わかっていない領域を意識することから出発するのです。確かな事実(ファクト)をベースに考えるのとは正反対と言えるでしょう。この盲点は、行動を生み出す内面の「源(ソース)」とも表現されます。U理論のテーマは、この「源」に近づくことです。

 

U理論の基本――谷を下り、上がる

「源」に近づくこと。それは私たちの日常的な習慣や経験則を手放すことを意味します。私たちの行動や思考は、習慣的なパターンにとらわれがちです。「これまでそうだったから」とか「前例がない」といったことが人の行動に及ぼす影響はとても強く、無意識のうちに影響を受けていることも多いものです。皆さんも思い当たることがあるのでは?

U理論では、そのように過去のパターンを踏襲して考えることを「ダウンローディング」と呼びます。もちろん、経験則や習慣が良い方向に作用することも多いのですが、変革に際してはしばしば大きな妨げになります。ダウンローディングを停止すること。それがUプロセスの最初のステップです。

ダウンローディングを停止したら、今の現実をありのままに「観る」ことが次のステップになります。ここでは詳しく説明できませんが、「観る」ためには、問いを持つこと、状況(コンテクスト)に入り込むこと、判断を一時保留することなどが必要とされます。その次は、出来事を自分と切り離して見るのではなく、自分もそれを構成する一部だという自覚を持って現実の全体像を「感じ取る」ステップ。これらはU字型の左側を下りていくプロセスとして説明されます。

そして、現時点の全体性を感じ取ることから、これから生まれ得る未来――自分次第で実現し得る未来――の可能性へと視座を移す「プレゼンシング」の段階が、Uの「底」の部分となります。

Uプロセス

プレゼンシング」という言葉は、聞いたことがない人が多いと思います。これはsensing(感じ取る)とpresence(存在)の混成語で、U理論ならではの用語です。端的に説明すれば、「未来の可能性を、自己を通して今この時に持ち込むこと」……これだけでは理解しづらいかと思いますが、芸術家の「創造の瞬間」をイメージしていただければと思います。それまで見えなかった可能性や真実や「あるべき姿」に気づき、心が震えるような瞬間、と言えばよいでしょうか。

プレゼンシングを境に、今度はU字型の右側を上がっていきます。未来の可能性からビジョンと意図を明らかにする「結晶化」、実行することによって未来を探索する「プロトタイピング」を経て、「実践する」ステップへ進むと、ついに新しい現実が生まれます。ここでは詳しく語れませんが、書籍『U理論』では個々のステップが何を意味するか、それをどのように進めばよいかが丁寧に解説されています。Uの谷を下って、上がる。これがU理論における変革のプロセスであり、旅(ジャーニー)の道程です。

 

哲学からデザイン思考まで、多様な知見を融合

このようなU理論の変革プロセスは、特に「プレゼンシング」の段階など、ビジネス界で常識と見なされる論理的思考とは大きく異なる性質を持つため、最初は違和感を覚える人が多いようです。しかし、人間社会の問題はしばしば論理だけでは割り切れないもの。個人間の問題であれ、組織の問題、社会や国家の問題でも、意見や立場の異なる主体それぞれに論理があり正義があるのが現実です。

また、新たな発想やイノベーションには論理だけではない何かが求められることも、多くの人が頷かれるのではないでしょうか。ビジネス界でも近年、直感の重要性が語られたり、フィールドワークやインプロビゼーション(即興劇)の研修が広がったり、異文化理解力に注目が高まったりと、従来とは異なる思考・行動のアプローチを求める動きは強まっています。

U理論のプロセスが、様々な分野の知見や先端的な手法の性質を兼ね備えていることに気づかれた人もいるかもしれません。「感じ取る」のステップは、『世界が100人の村だったら』で知られるドネラ・メドウズが提示した、物事の本質をつかむ思考法「システム思考」の核心とも言えます。アイデアを形にしてみて検証する「プロトタイピング」は近年注目される「デザイン思考」でも重要なステップです。学術的にも、U理論は哲学、心理学、認知科学など幅広い知見を取り入れており、非常に学際的です。

 

内側から変革を起こせ

多種多様な知見に基づいているからこそ、U理論は、さまざまな分野の変革に活用できると言われているのでしょう。ビジネスにおける組織変革新規事業開発イノベーション創出リーダーシップ育成、また社会問題の解決地域コミュニティの再生といった領域にも、U理論のアプローチは取り入れられています。『U理論』に続くオットー・シャーマーの著作『出現する未来から導く』では、経済格差、金融危機、環境破壊、消費主義、政府のあり方、テクノロジーといった多様なテーマにU理論を適用し、実際に起きている現象や事例を紹介しながら変革を論じています。

この本は、企業、政府、市民社会、メディア、学界、地域コミュニティなどを含むあらゆるセクター、文化、システムの中にいる変革者たちのために書かれた。(『出現する未来から導く』より)

世の中には「変革」に関する書籍は数多くありますが、U理論が特徴的なのは、真に求められる変革は、人間一人ひとりの、自分自身の内側の変革によってこそ生じるのだと明瞭に示していることです。Uの谷の「底」であるプレゼンシングの段階で、未来の最高の可能性を見出すとき、人は利己心にとらわれた小さな自己を超え、その人の最も優れた本質である「真正の自己(オーセンティック・セルフ)」につながるのだとシャーマーは語ります。

本当に望ましい変革を実現するため、まず自分自身を超える。U理論は、小手先の変化のためにハウツーを語るものではありません。ビジネスパーソンとして、一人の人間として、あるいは集団や組織としての成長を不可避的に伴う、本物の変革を導くための理論なのです。そして大規模な社会変革であれ、少人数のチームの変革であれ、どんな変革にもそのような挑戦があり、それだけに大きなやりがいもあることが、シャーマーの記述からは読み取れます。ここに、U理論が世界各地で多くのビジネスリーダーやマネジャー層に熱く支持されている一つの理由があるようです。

いかがでしょう。不確実性が高く変化の激しい時代のなかで、Uへの旅に踏み出し、自己と世界の可能性を探求する変革者として生きる道を、あなたも選んでみてはいかがでしょうか?

U理論[エッセンシャル版]

人と組織のあり方を根本から問い直し、新たな未来を創造する

過去や偏見にとらわれず、物事の本質を感じ取り、未来につながるインスピレーションをつかむ――。人と組織の変容やイノベーションの創出に役立つ画期的手法として世界的に広がっているU理論。その要諦をオットー・シャーマー自身がコンパクトにまとめたエッセンシャル版。

C・オットー・シャーマー[著]
由佐美加子、中土井僚[訳]
A5変形判ソフトカバー 248ページ 定価:本体1,800円+税
2019年11月14日発売

「組織や事業の存在目的はどうすれば感知できるのか。私の知る限り、U理論は最も確かで奥深い方法論だ」――フレデリック・ラルー(『ティール組織』著者))


訳者まえがき
第I部 場を見るための枠組み
 第1章 盲点
 第2章 U理論――形は意識に従う
 第3章 社会進化のマトリックス
 第4章 針の穴
第II部 意識に基づくシステム変革の方法
 第5章 一つのプロセス、五つの動き
第III部 進化的社会変革の物語
 第6章 社会のオペレーティング・システムをアップグレードする
 第7章 原点に戻る


訳者まえがき

21世紀を迎えてからまもなく20年になろうとしています。21世紀は私たちにとってどのような時代として形を現してきているのでしょうか? さまざまな面で不確実性が高い、変化の激しい時代というイメージをお持ちの方は少なくないでしょう。

ハンス・ロスリング氏は著書『FACTFULNESS(ファクトフルネス)―10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(日経BP)の中で、統計データに基づけば世界はより良いものになってきており、にもかかわらず私たちは、世界がより悪くなっていると思い込みがちだと述べています。

たとえば、世界の人口のうち極度の貧困にある人の割合が過去20年でどう変わったかという問いについて、正しい認識(半分になった)を持っている人はとても少なく、調査では各国の大半の人が「あまり変わっていない」か「約2倍になった」と答えたそうです。世界が「より良くなっている」事実を知らないばかりか、「より悪くなっている」と思い込んでいる人が多いというのです。

こうした思い込み(裏を返せば「昔はよかった」という見方)は実際、私たちの中にも見られるのではないでしょうか。政治や社会の諸問題や、地域のあり方や、属する組織のカルチャーなど、さまざまな問題について、確たる根拠がないにもかかわらず、状況が悪化しているというイメージを持っていることはないでしょうか?

とはいえ、世界がより良くなっているのが統計的な事実だとしても、だからといって「このままで大丈夫」とか「何も心配はいらない」ということにはなりません。ロスリング氏は、事実に対する向き合い方として、悲観主義でも楽観主義でもなく「可能主義」という立場を提唱しています。根拠なく希望を持ったり不安になったりするのではなく、良い事実も悪い事実もきちんと把握し、その上で建設的な行動をとるというスタンスです。

わたしは「世界は良くなっている」とは言っているが、「世界について心配する必要はない」と言ってはいない。もちろん、「世界の大問題に、目を向ける必要はない」と言っているわけでもない。「悪い」と「良くなっている」は両立する。

ロスリング氏は比喩として、世界は保育器にいる赤ちゃんのようなものだと述べています。保育器の最適化された環境の中で徐々に体調は良くなっているものの、予断を持たず、注意深く見ていなければならないということです。

ものごとを安易に断定せず、思い込みに陥らず、事実をありのままに見ることの大切さは、さまざまな問題が複雑に絡み合い、また新たな課題も次々に生まれている今日、ますます高まっているのではないでしょうか。そして、テクノロジーによって膨大な量のデータが得られる現代だからこそ、私たちはこうした新たな見方ができるはずですし、していかなければならないと思います。

これは言うのは簡単ですが、私たちに大転換を強いています。

たとえば気候変動は、いまや気候危機とも呼ばれ、私たちの生活が自然災害に脅かされることが現実にたびたび起きていますが、今のところ状況改善の兆しは見えません。何をどう考えてもより良くなっていくようには感じられない状態です。そんな中で、私たちは絶望するのではなく、大丈夫と思い込むのでもなく、「可能主義者」でいられるでしょうか?

自分の認知が歪んだり偏ったりするのを防ぎ、曇りのない目で、ほんとうの問題は何か、真に存在する可能性は何なのかを見つめ、建設的な行動を起こすこと。そのヒントを提示するのがU理論です。

U理論とは、過去の延長線上ではない変容やイノベーションを、個人、ペア(一対一の関係)、チーム、組織、コミュニティ、社会といったさまざまなレベルで起こすための原理と実践の手法を明示した理論です。学者、起業家、ビジネスパーソン、発明家、科学者、教育者、芸術家など約130名の革新的なリーダーたちに対するインタビューから生み出されました。

詳しくは本文をご覧いただくとして、ここではU理論の主な特徴を5つ挙げておきます。

1.外的な状況に本質的な変化をもたらすため、内面の変容を重視している……外的な状況に影響を与える施策や行動は、個々人の内面から生じているものであるという観点に立脚し、内面の変容に基づくイノベーションの実現を重視しています。
2.内面の変容を外的な変化につなげる道筋とその実践手法を体系化している……目に見えづらい内面の変容はどのように促進され、それをどのように外的な施策へとつなげていけばよいのかの原理・原則が描かれています。
3.自分の内面の状態をメタ認知できるようになり、自ら変容を起こす力が高まる……内面の状態をメタ認知(自分の認知状態自体の認知)するための枠組みと、自分の内面の質を向上させるためのポイントが示されています。
4.自分が当事者となっている問題の解決の糸口が見えるようになる……問題と自分自身がどのようにかかわっているか(自分がどのように問題の一端を担っているか)を理解し、解決の糸口を見出すことに役立ちます。
5.個人、一対一、チーム、組織、社会のあらゆるレベルで実践が可能……U理論の原理・原則は普遍的なものであるため、問題が起きているのがどのレベルであっても、応用が可能です。

こうした特徴を持つU理論は、シャーマー博士自身や世界中の実践者たちにより、数々の社会変革や組織変革のプロジェクト等で活用され、実践理論としての体系化が図られつづけています。企業での実践事例のみならず、南アフリカのアパルトヘイト問題やコロンビアの内戦、アルゼンチンやグアテマラの再建など、複雑な社会問題を解決する現場でも活用され、多大なる影響を生み出しています。

日本でもU理論が紹介されはじめてから約15年が経過しようとしており、一部の方には知られるものとなりましたが、既に知っている人であったとしても、その本質のいくつかはまだ十分に理解されているとは言い難い状況です。

そのうちの一つが、U理論は三つの大きな断絶(環境、社会、精神の断絶)によって生じる社会課題を解決しようとしているということです。

本書の冒頭に「我々の時代の三つの大きな断絶―環境、社会、精神の断絶―を埋めようとする人たちが創る、今出現しつつある運動に捧げる。」と記されているように、シャーマー博士はこれらの断絶が私たちの現在抱えている解決困難な課題の根幹であり、ここに「てこの支点」となりうる変革の要があるととらえています。

U理論はその「てこの支点」に差し込まれる強力な棒として生まれ、進化を遂げつづけています。

本書は博士自らの手によってエッセンシャル版として生み出されたものですが、単に『U理論[第二版]―過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術』を要約した解説本ではありません。

『U理論[第二版]』の内容に加え、続編として出版された博士とカトリン・カウファー氏の共著『出現する未来から導く―U理論で自己と組織、社会のシステムを変革する』の内容も本書ではカバーされています。

この二冊の「エッセンス」が抽出されてできている本書は、U理論とは何か、どうやって実践するのかに加え、私たちが現在抱えている問題の本質は何なのか、時代の進化はどのような段階を経て生じ、その時代の進化の一翼を担う私たちに何が問われているのかを指し示しています。

その意味で、時代の大局をとらえながらも、先行きの不透明な未来に向かってどんなビジョンを柱として打ち立て、どんな第一歩を踏み出していけばよいのかのヒントを得たい人にとっては価値ある一冊となるものと思います。

三つの大きな断絶(環境、社会、精神の断絶)によって生じる数々の問題は、私たちにとてつもなく大きな痛みを伴うさまざまな事態を突き付けてくるのは避けがたいのではないかと思います。

そして、その痛みを伴うほどの事態に対して私たちが真正面から向き合うからこそ、開かれる可能性があるはずです。

その逆説的な未来への可能性の扉が本書から開かれていくことを願ってやみません。

※本書の中でUラボというプレゼンシング・インスティチュートが主催するグローバル規模での取り組みが紹介されていますが、日本においても、U理論の実践を支援するために各種活動を展開しております。ご興味のある方はぜひ、こちらにアクセスをしてください。
・一般社団法人プレゼンシングインスティチュートコミュニティジャパン
www.presencingcomjapan.org/
・フェイスブックページ U理論公式ファンページ
www.facebook.com/theoryu/
・Uラボ日本語受講者同士のバーチャルハブ
www.facebook.com/groups/1546538972284097/

2019年8月
一般社団法人プレゼンシングインスティチュートコミュニティジャパン 理事 中土井 僚

U理論[第二版]

過去や偏見にとらわれず、
本当に必要な「変化」を生み出す技術

複雑さを増す今日の諸問題に、私たちはどう向き合うべきなのか? 「未来から学ぶ」という斬新な視点を提示し、その手法を体系化したU理論は、経営学に哲学や心理学、認知科学、東洋思想まで幅広い知見を織り込んだ他に類を見ない理論であり、その示唆は21世紀の世界に幅広く根本的な影響をもたらしつつある。あらゆる前提を取り払い、最も深い内面の声に耳を傾けよ――人・組織・社会の「在り方」を鋭く深く問いかける、現代マネジメント界最先鋭の「変革と学習の理論」。

C・オットー・シャーマー[著]
中土井僚、由佐美加子[訳]
A5判ハードカバー 592ページ 定価:本体3,500円+税 
2017年12月20日発売

地球温暖化、生物多様性の問題、地域紛争やテロ、拡がる地域格差と貧富の差。すべてわれわれが緊急に解決しなければならない社会的課題である。U理論はこうした課題に対処できる未来創造志向の新たなリーダー像とその課題解決に向けたイノベーションのプロセスを提示する。著者の研究基盤である経営学に、哲学、心理学、認知科学、宗教などの知見がブレンドされた味わい深い一冊である。――野中郁次郎(一橋大学名誉教授)

日本語版訳者まえがき
第二版まえがき――10年ののち、立ち現れる地球
序文――ピーター・センゲ
はじめに

[第I部 盲点に突き当たる]
第1章 火事
第2章 Uへの旅
第3章 学習と変化の四つの層
第4章 組織の複雑さ
第5章 社会の変容
第6章 哲学的見地
第7章 敷居

[第II部 Uの領域に入る]
第8章 ダウンローディング
第9章 観る
第10章 感じ取る
第11章 プレゼンシング
第12章 結晶化する
第13章 プロトタイピング
第14章 実践する

[第III部 プレゼンシング]
第15章 社会的な場の文法
第16章 個人の行動
第17章 会話の行動
第18章 組織の行動
第19章 グローバルな行動
第20章 現実創造の瞬間をとらえる
第21章 プレゼンシングの原則と実践
エピローグ Uスクール


日本語版 訳者まえがき

人と組織の課題についての本質的な解決策や、チーム・組織・社会におけるイノベーションを生み出すための方法として、MIT(マサチューセッツ工科大学)のオットー・シャーマー博士らが学際的研究によって生み出したアプローチ、「U理論」に私が出会ったのは2005年秋頃のことでした。米国ではすでに画期的な変革理論として注目が高まりつつありましたが、日本では組織開発に携わるほんの一握りの人だけが聞いたことがあるという程度でした。

2010年に本書の第一版を翻訳出版したことがひとつのきっかけとなり、日本においても近年、U理論への認知が広がってきました。U理論という言葉を聞いたことがあるという人はもちろん、U理論に基づいて組織変革に従事しているというファシリテーターや研修講師、また日々の仕事にU理論を取り入れているという経営者やマネジャー層の方々も増えてきています。

組織変革やイノベーションを目的としてビジネス界で活用されるだけでなく、シャーマー博士が社会問題の解決に非常に関心が高いためもあり、持続可能な社会を実現するためのソーシャルテクノロジーとしてもU理論は注目され、世界各地での実践を通して発展し続けています。U理論を学ぶ動きも広がっており、この第二版で紹介されるUラボ(u.lab)のオンライン講座には2015年、185カ国から75,000人の人が参加したそうです。

各界に衝撃をもたらしたU理論の誕生から10年以上の歳月を経て、実践・研究の広がりによって得られた知見を盛り込んでまとめられたのが、この第二版です。


日本におけるU理論の実践

日本においても、U理論はさまざまな領域で活用されています。

東日本大震災の半年後の2011年9月、クロスボーダーリーダーシップサミットという対話の場が生まれました。被災当事者、NPО/NGО、行政、企業、自営業、学術・教育、医療といった多様な立場・役割の方々が七七名集まり、U理論に基づいて対話を行ったのです。企業・行政とNPOが連携したプロジェクトが生まれるなど、震災直後のがれき撤去などの「復元」のフェーズから本格的な「復興」に向けた共創造の場となりました。2016年の熊本地震に際しても、U理論の実践者らが地域や組織、分野を超えて連携する動きを生み出し、以後の産業振興策や地方創生関連施策につながっています。

また、U理論を活かして、高齢化・人口減少がもたらす問題に立ち向かうためのプロジェクトも推進されています。たとえば、一般社団法人ダイアログは、「”ありえないつながり”を、つくる。」をコンセプトとし、医療問題について、患者となりうる市民、医療従事者、製薬会社などによる立場を超えた話し合い(マルチステークホルダー・ダイアログ)を過去3年で8回開催しています。地域活性化の取り組みとしては、株式会社リクルートライフスタイル/じゃらんリサーチセンターがメインスポンサーとなり、地域・社会のシステム変容を研究するコクリ!プロジェクトが約7年に渡って続いています。これには地域リーダー・自治体・官公庁・NPО・企業・大学・ファシリテーター・クリエイター・メディア・IT・金融など多種多様な分野のプロフェッショナルが参加し、実際にいくつかの地域で社会実験を行っています。教育分野でも、「主体的で対話的な深い学び」を可能にすることをめざし、広島大学の難波博孝教授をはじめとした教育関係者によって、U理論の原理原則を授業づくり・学校づくりに組み込む研究が始められています。

日本におけるU理論の実践を世界各国と比較したときの特徴は、その応用の幅にあります。U理論はそもそもイノベーションの原理・原則を示すものであり、その実践手法は無数に創り出すことが可能です。しかし、米国をはじめ他国ではシャーマー博士らが直接示した手法がそのまま利用されることが多く、日本のように柔軟に応用して用いられるケースは少ないと聞いています。原理・原則を踏まえた上でさまざまな実践手法を組み合わせて独自に応用している実践家が数多くいるという意味で、日本にはU理論について先進的な事例がそこかしこに存在すると言えるでしょう。

そのことから私は、U理論は日本では一時的な流行に終わらず、”グランドセオリー”として根付き始めているのではないかと考えています。


なぜ今、U理論の実践が広がっているのか

U理論は経営学、心理学、哲学、認知科学などの知見が織り交ぜられており難解なところがあるため、「一見さん」で通り過ぎた方も少なくないかもしれません。一方で数多くの実践家が出現しているのは、いくつかの理由が考えられます。

U理論は、外側からは「目に見えない」内面の変容と「目に見える」外部の変革の関係性を示した、数少ない実践的な理論である
小手先の施策や仕組み(外部の変革)では根本解決には至らないという認識が強くなればなるほど、「人が変わらなければ状況は変わらない」という、人の問題にたどり着きやすくなります。その問題意識が強いほど、U理論の実践への関心も高まりやすいようです。

U理論は、個人の意識や行動の変容だけでなく、一対一の関係性の向上、グループやチームの一体感の向上、イノベーションの創出、組織の変革、社会の進化といった様々な次元で応用が可能である
私は10年以上にわたってU理論のセミナーを開催していますが、企業で人材育成に携わる人だけでなく、経営者、カウンセラーやコーチといった対人支援職にある人、クリエイターなどの芸術性のある活動に従事する人、NPO/NGOなどの社会活動家、行政関係者等、多岐にわたる方々が参加されています。
しばしば、人生における何らかの危機を乗り越えたり、仕事で自分の能力に悩み苦労したりしたことがある人は、「自分はUプロセス(U理論による変革プロセス)を体験したことがある」と言います。カウンセラーやコーチの方は、よく「U理論にはカウンセリング(またはコーチング)に通じるものがある」と言いますし、クリエイターの方には、「クリエイティブな作業をするときは、まさにこのプロセスをたどる」と言われたことがあります。このように、変革や創造に際して自分がやっていること・経験したことが、U理論によって言語化されていると感じる人は多いようです。
つまり、U理論は一見難解なように見えますが、各自の経験に照らし合わせてみると誰でも思い当たることがあるようです。このことが、幅広い分野でU理論が応用される、間口の広さにつながっていると考えられます。

意識変容に着目した様々な流派の実践者による交流が盛んであり、その共通言語としてU理論が橋渡し役を担っている
カウンセリング、コーチング、ファシリテーション等、人と組織の意識変容に関する手法は多岐に渡ります。多くは海外で生まれたもので、日本ではそれを「輸入」している例が多いことから、創始者の目から離れたところで独自の工夫がなされやすいようです。それはイノベーターによる垣根を超えた交流を生み出しやすい上に、意識変容に着目した実践者がまだまだ少ないため関係が緊密になりやすく、応用のアイデアも生まれやすいようです。
U理論は意識や行動の変容の原理・原則を表していることから、異なる実践手法の間をつなぐ共通言語になりやすく、交流と応用を促進することができます。そして交流と応用によって、共通言語としてのU理論の必要性がさらに高まるという好循環が生じています。

複雑な問題に対する意識が高まっており、その解決に向けた模索の過程の中でU理論にたどり着くケースが増えている
この第二版での加筆部分でシャーマー博士はVUCA(変動、不確実性、複雑性、曖昧さ)による世界への影響を論じていますが、日本社会はそれらに加え、人口減少、高齢化、福島の原発事故、自然災害の多さ、働き方、メンタルヘルスなど多くの問題を抱えています。いずれもさまざまな要因が絡み合う問題で、解決の難しさや見通しの厳しさを肌で感じる人が増えているようです。そして解決の手がかりを探し求めた結果、U理論にたどり着いたという人は少なくありません。
実際に私は、U理論の中で語られる三つの複雑性(ダイナミックな複雑性、社会的な複雑性、出現する複雑性)について理解を示す人が、東日本大震災以降、明らかに増えたと感じています。現実に複雑な問題に触れた実感があるからでしょう。
また、特に企業においては、イノベーションの必要性が叫ばれる中で、U理論に着目されるケースが増えています。


今後、U理論をどのように活かすか

このように、私がU理論に出会った黎明期と比べれば、今日のU理論の実践は飛躍的な発展を遂げています。しかし、私たちがまさに今、直面しているVUCAに象徴される21世紀型の問題に対する取り組みは、まだまだ足りないと言わざるを得ません。

21世紀型の問題に私たちが向き合い、より持続可能な社会を実現するために、U理論はどう役立つのでしょうか。U理論が活かせるチャレンジをいくつか挙げてみます。

マルチステークホルダーの参画によるプロジェクトの拡大
複雑性の高い問題であればあるほど、部分による拙速なアプローチは、効果が限定的であるばかりか、より問題を複雑化させる恐れがあります。それはまるで絡み合った糸を無理に解こうとして、さらに絡ませてしまうのと似ています。政・官・財・学はもちろん市民や消費者も巻き込んだマルチステークホルダーのアプローチが、さまざまな社会課題において鍵を握ることになるでしょう。U理論はマルチステークホルダー・アプローチを可能にするものであり、その有用性がさらに着目されるのではないかと思います。

多様性をイノベーションへと結実させる実践的手法の流通と定着
複雑性が高まれば高まるほど、イノベーションの必要性が訴えられます。そしてイノベーションを生む要素として、多様性に対する期待が高まり続けています。しかし一方で、多様であればあるほど複雑性は高くなります。わかり合えない感覚による違和感が増し、統合よりも分断に向かう、シャーマー博士が言う「反Uのプロセス」(401頁参照)を辿りやすくなります。「力を合わせなければならない状況になればなるほど、より分断が加速する」という、本末転倒な状況に陥るのです。
このような、多様性の高い状況であればあるほど、ソーシャルテクノロジーとしてのU理論の有用性が高まります。Uプロセスを促進する実践的手法の流通、定着がますます求められていくでしょう。

内面の変容に対するリテラシーの向上を促す学習システムの構築
イノベーションの質は、多様な人々が話し合う場だけで決まるのではなく、普段の一人一人の意識変容と行動変容の積み重ねにかかっています。自らの力によって、偏見に満ちた「ダウンローディング」から抜け出し、本質を感じ取る「センシング」、生み出すべきものを知覚する「プレゼンシング」の状態にたどり着けるか。また他者がそこにたどり着くのをどれだけ支援できるか。そうした日々の実践の中で培われる「筋力」が問われます。
このような内面の変容に対するリテラシー(内省リテラシーと呼んでいます)を高めるには、シャーマー博士の同僚であり師の一人でもあるピーター・センゲが提唱する「学習する組織」の構築を目指したり、内省のための実践コミュニティを家庭や所属する組織以外の場所で構築したりすることが大切になります。そうした取り組みの中で、ダウンローディングやプレゼンシングといったU理論の言語は共通言語の役割を果たす可能性があり、内省リテラシーの向上を促すものと考えられます。

「自分は何者であり、何を成すのか」に対する気づきと自己変容型知性の向上
U理論を確立していく過程の中で、シャーマー博士はロバート・キーガン、ビル・トルバート、ケン・ウイルバー等が提唱する発達心理学も参考にしています。
より持続可能な社会を実現していく上では、地球人としての人類の発達が必要不可欠です。シャーマー博士はそれを「エゴシステムからエコシステムへ」という社会システム全体の進化として表明していますが、それを下支えするには私たち一人一人の「発達」が必要になるでしょう。
ロバート・キーガン(ハーバード大学大学院教育学大学院教授)が提唱する成人発達理論では、知性を環境順応型知性、自己主導型知性、自己変容型知性のと三段階に分けています。他人の価値観に依存する環境順応型知性のままでは主体的な変革は生まれづらく、自己の軸の確立が必要になります。「自分は何者であり、何を成すのか」に対する気づきをもたらす「プレゼンシング」は、この自己の軸をもたらすものであり、自己主導型知性への移行を促進するものと言えます。また、現実をありのままに捉え本質を感じ取る「センシング」は、自己の見解や主義主張から離れ、新たな視座に立つことができるようになります。これは自己変容型知性への発達と言うことができます。
Uプロセスの日常の中での実践が、こうした知性の発達の下支えになります。

この第二版の出版は、U理論がこれまでの啓蒙のステージを終え、実践の拡大のステージへと移行したことを意味しています。

日本においても、U理論の実践を支援するために各種活動を展開しております。ご興味のある方はぜひ、こちらにアクセスをしてください。

一般社団法人プレゼンシングインスティチュートコミュニティジャパン
http://www.presencingcomjapan.org/

Facebookページ U理論ファンページ
https://www.facebook.com/theoryu/

Uラボ日本語受講者同士のバーチャルハブ
https://www.facebook.com/groups/1546538972284097/

本書との出会いが、読者の皆様の「自分は何者であり、何を成すのか」に対する気づきのきっかけとなり、より持続可能な社会の実現に向けた発展の機会となることを心より祈念しております。

2017年11月
一般社団法人プレゼンシングインスティチュートコミュニティジャパン
理事 中土井 僚 由佐 美加子


出現する未来から導く

U理論で自己と組織、社会のシステムを変革する

私たちは混乱の時代に生きている。貧富の格差、政治の混迷、組織の機能不全、環境破壊・・・複雑に絡み合う現代のビジネス・経済・社会の諸課題を乗り越えるには、私たちの考え方の転換が必要だ。盲点に気づき、小さな自己を超え、全体の幸福につながる組織・社会のエコシステムを創らなければならない。その取り組みは既に始まっている――。注目の変革理論「U理論」の開発者が、未来志向のリーダーシップと組織・社会の変革をより具体的・実践的に論じた待望の新著。

C・オットー・シャーマー、カトリン・カウファー[著]
由佐美加子、中土井僚[訳]
A5判ハードカバー 368ページ 定価:本体2,400円+税
2015年7月14日発売

時代を変える一冊! 今や世界中の多くの人々が目指しているシステム変化の内と外の側面を統合した刺激的で実用的な書籍だ。――ピーター・センゲ(マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院上級講師、『学習する組織』著者)

志ある人には必読の書である。これまでに読んだ中で最も重要な一冊になるかもしれない。――アーサー・ザイエンス(マインド・アンド・ライフ・インスティテュート代表)

経済を転換させる独創的で実践的なアプローチを提供する本。私はビジネスを一つの運動ととらえている。この本はその運動を世界と共有し、私たちの深いレベルの人間性を引き出す意欲に火をつけ、今日の危機を転換させるよう私たちを駆り立てる。――アイリーン・フィッシャー(アイリーン・フィッシャー・インク創業者)

日本語版 訳者まえがき
はじめに――死に瀕したシステムに命を吹き込む
第1章 表面――死と再生の諸症状
第2章 構造――システムが生む断絶
第3章 思考を転換する――経済進化のマトリックス
第4章 源――意図と意識につながる
第5章 個人の転換を導く――「私」から「我々」へ
第6章 関係性の転換を導く――エゴからエコへ
第7章 組織の転換を導く――エコ・システム経済を目指して
第8章 出現する未来から導く――今こそ


日本語版 訳者まえがき

オットー・シャーマー博士の著書Theory U: Leading from the Future as It Emergesが米国で出版されたのは2007年。経営学に科学、哲学、心理学など多様な分野の知見が織り交ぜられたこの独創的な変革理論は、多くのビジネスリーダーや思想リーダーに支持され、ベストセラーとなりました。変化が激しく、不確実性の高まった世界において、過去のパターンにとらわれない変化を生み出すためのU字型のプロセスは、まさに求められている考え方だったのだと思います。

日本にもこの理論を伝えたいという想いと多くの方々の共感に支えられて筆者らが邦訳した『U理論――過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術』が書店に並んだのが2010年11月。そして、それから4カ月後の2011年3月11日に東日本大震災が起こりました。

この時から日本は、自然災害による破壊からの復興だけでなく、原発事故と放射能汚染という、誰も確たる解をもたず責任も取りきれない未曾有の負債を抱える国になりました。そして震災後の日本では、過去を取り戻す「復旧」ではなく、新しい社会の在り方の「創造」を模索する動きが次々に生まれてきたように思います。

過去に成功したやり方を、もっと早く、もっと多く遂行すれば、なんとかなるはずだ。専門家とその専門知識があれば打ち手が見つかるはずだ。――このような従来の問題に対する思考や解決法は、今日私たちが直面している、経験したことがなく、複雑で、正解のない問題には、まったく通用しなくなっている。震災は、このことをはっきりと認識せずにはいられない、大きなターニングポイントだったのではないでしょうか。

多くの課題や問題に満ちた今日の現実に対して、解決する方法(HOW)をどんなに考えて実行しても、適切な道筋は見出せない。なぜならば、その現実(形)は「意識」が行動を通して創り出しており、意識に働きかけない限り、本当の解決には至らないからだ。――これがU理論の核であり、内面の「意識」に焦点を当てたことが、従来のさまざまな経営理論・変革理論に対してU理論がとりわけ画期的であったポイントだと言えるでしょう。シャーマー博士は、私たちの意識が過去のパターンにとらわれているために、誰も本当に望んではいない現実を、私たちが自ら創り出しているということを『U理論』で示しました。

では、望む現実を創り出すための意識は、どのように醸成されるのでしょうか。

そのためには、自己や自分の組織、自分の属するコミュニティだけの利益と部分最適を求める自我(エゴ)を越えて、システム内のすべての生命の充足を目的とした「全体性」から「自分は何者なのか」を問い直すこと、そして真の自己や社会のあるべき姿を深いレベルまで掘り下げることが必要だ。――『U理論』から6年ぶりに記された新著である本書『出現する未来から導く』(Leading from the Emerging Future: From Ego-System to Eco-System Economies)で、シャーマー博士はこのように述べています。

このプロセスで起こる「意識の変化」によって、私たちの「内面の場の転換」がもたらされる。その「源(ソース)につながった」内面の場から、未来の可能性が立ち現われてくる。それに対する意識から起こす行動こそが、私たちの新しい現実を創り出す。本書のタイトルになっている「出現する未来から導く」とは、このように自らの内側を変えることから出発し、あるべき未来に導かれるようにして現実を変容させていくプロセスを意味します。そして著者は、このプロセスを私たちは集合的に実践することができると述べています。過去のパターンにとらわれることで誰も望まない現実を創り出してしまうのとは対照的に、真に望む変化を生み出すことができるのだと。

振り返ってみると、震災という出来事を通して、日本で生きる私たちの多くが、改めて自分の内面と向き合い、生きる意味や目的を問い直したのではないでしょうか。自分は何のために生きるのか。自分にとって幸せとは何なのか。仕事を通じて自分は世の中で何を成したいのか。そのような「全体性への覚醒」ともいえる内省を、多くの人が経験したのではないでしょうか。これはU理論で捉えると、行動を創り出していた「内面の意識」が転換する、集合的な意識変容プロセスといえます。私たちは個人としても、国としても、また企業や地域コミュニティとしても、大きなUプロセスを体験する機会を、過酷な自然災害を通して与えられたのかもしれません。この体験が何を意味しているのか、私たちはこの体験を経てどこに向かっているのか、向かいたいのか。それを探究し続ける必要があると感じています。

本書では、この自我から全体性への意識の転換は「エゴ‐システムからエコ‐システムへ」という言葉で表現され、現実に各国や企業で起こっている事例を用いてUプロセスの具体的な内容がひも解かれています。前著『U理論』では概念的な議論が多くを占めていましたが、本書では、世界中の実存する様々なシステムや事例を通して、U理論がどのように実践されているのか、より現実的に理解することができる内容になっています。加えて、ビジネス・経済のあり方からテクノロジー、自然との関係、リーダーシップのあり方など、世界のさまざまな側面において読者を取り巻く状況が今、どのような段階にあり、次にどんな展開を迎えられればよいのかを見出すためのヒントが4段階の枠組みの中で示されています。

U理論は、人間は存在の「源」につながり、全体性への意識から集合的に「現実を創造する」ことができるのだという、人間存在そのものに対する大きな希望を示しています。私たちは機能不全のシステムの犠牲者ではなく、あらゆる存在の幸せに資するシステムの創造者として生きられる。今こそ、この能力と可能性を開く時なのかもしれません。

シャーマー博士の前著の出版から5年を経て、当初の想像をはるかに超えた数多くの方々が、望む変化を起こす新しいアプローチとしてU理論に興味関心を持ち、筆者らが主催するU理論を学ぶ場に足を運んでくださいました。そしてUプロセスを使った対話の場や組織での導入事例も数多く蓄積されてきています。

本書『出現する未来から導く』は、U理論を自身の直面する現実に役立てたいと望む多くの方々にとって、きわめて有用な実践の指針と見取り図を提供するでしょう。組織や事業の変革を成し遂げたいビジネスリーダーやマネジャー、イノベーションへの新たなアプローチを求めている方々、未来の社会のあり方を構想する行政や非営利組織、地域コミュニティに携わる方々など、未来志向で現実を変えていきたい多くの方にぜひお読みいただければと思います。

まったく予想のつかないこれからの未来に何があったとしても、人間性に立って望む未来を創ろうとする、希望と意志から行動する人々とそのつながりが社会の原動力になっていくと筆者らは信じています。この本がその触媒の一つとなっていくことを願ってやみません。

最後に、5年前、完全に未知の可能性だったU理論を世に出すことに共感していただき、前作に続き本書でも翻訳作業を辛抱強く待ち続けてくださった英治出版の原田英治社長と高野達成さんに心より感謝申し上げます。

2015年6月
由佐美加子 中土井僚

著者紹介

C・オットー・シャーマー
C. Otto Scharmer

マサチューセッツ工科大学(MIT)上級講師・IDEASプログラム座長、プレゼンシング・インスティテュート創設者・座長。精華大学客員教授。アフリカ、アジア、南北アメリカおよびヨーロッパで政府、国連機関、企業、NGOと協働してきたほか、アリババ、ダイムラー、アイリーン・フィッシャー、富士通、グーグル、ナトゥーラ、プライスウォーターハウスなどの顧客企業にリーダーシップとイノベーションに関するプログラムを提供してきた。2012年には政府、企業、教育、市民社会の抜本的な変革のプロトタイプを創造するため、ブータン、インド、中国、ブラジル、ヨーロッパ、アメリカの変革者を結びつけるグローバル・ウェルビーイング・アンド・グロス・ナショナル・ハピネス(GNH)を共同創設。世界経済フォーラム「新しいリーダーシップモデルに関するグローバル・アジェンダ・カウンシル」の副座長も務めている。ドイツのヴィッテン‐ヘアデッケ大学で経済学と経営学の博士号を取得。ボストン圏に家族と在住。
オットー・シャーマー公式サイト(英語)


[『出現する未来から導く』共著者]

カトリン・カウファー
Katrin Kaufer

プレゼンシング・インスティテュート共同創設者・研究ディレクター、MIT都市研究計画学部コミュニティ・イノベーターズ・ラボ(CoLab)研究フェロー。リーダーシップ、社会変革、社会的責任金融を研究テーマとする。中規模および世界規模の企業、非営利組織、世界銀行、国連開発計画にコンサルティングを提供してきた。現在は、金融を好ましい社会変革に結びつけることに力を注ぐ20の金融機関のネットワークであるグローバル・アライアンス・フォー・バンキング・オン・バリューズと協働。またオンライン学習プラットフォームである、プレゼンシング・インスティテュートのグローバル教室のコンセプトを共同開発した。ドイツのヴィッテン・ヘアデッケ大学でMBAと博士号を取得。ボストン圏に家族とともに在住。

[訳者]

中土井 僚
Ryo Nakadoi

リーダーシップ・プロデューサー。オーセンティックワークス株式会社代表取締役。一般社団法人プレゼンシングインスティチュート・コミュニティ・ジャパン理事。同志社大学法学部政治学科卒。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア株式会社)等を経て2005年に独立。「自分らしさとリーダーシップの統合とコ・クリエイション」をテーマにU理論をベースとしたリーダーシップ開発と組織開発に従事。過去に手掛けた変革プロジェクトは、業績低迷と風土悪化の悪循環に陥っていた化粧品メーカーのV字回復や、製造と販売が対立していた衣類メーカーの納期短縮など70以上。著書に『U理論入門』(PHP研究所)

由佐 美加子
Mikako Yusa

合同会社CCCパートナー。米国大学卒業後、国際基督教大学修士課程を経て野村総合研究所入社。後にリクルートに転職、事業企画職を経て人事部に異動し、「学習する組織」の考え方に基づく人材・組織開発施策を導入。2005年米国ケースウェスタンリザーブ大学経営大学院で組織開発修士号を取得。出産を経て、グローバル企業の人事部マネジャーとして人材・組織開発を担った後、2011年に独立し、2014年に合同会社CCCを設立。競争と分断を越えたCo-creation(共創造)を個人の人生や企業組織、社会に創り出すプロセスを提供している。

記事・映像

  • 「U理論」とは?(中土井僚『人と組織の問題を劇的に解決するU理論入門』より)|PHPオンライン
  • U理論はエンジニアの学び方を変えられるか?――中土井僚×西尾泰和、過去の枠組みにとらわれないイノベーションのプロセスを考える|サイボウズ式
  • “雰囲気最悪”な職場の共通項――みんな「人のせい」にばかりしている|日経ビジネスオンライン
  • 『アナと雪の女王』のように「ありのまま」で生きても職場で浮かないのか?|Yahoo!ニュース

  • オットーシャーマー博士メッセージビデオ1

    オットーシャーマー博士メッセージビデオ2

    U理論をベースにした222人によるラージスケールダイアログの実践
    2014年2月22日に行われたU理論出版記念シンポジウムの記録動画です。