私たちが理想とする個人の自由と尊厳の基準を満たすためには、成人した人々はかなりの程度の独立性を確保しなければいけない。しかし同時に、自己の限界を知り、社会全体の構成員として折り合っていかなければいけない。さらに、自己の欲求を超えた価値に対して、忠実でなければならない。
―― 第9章 P183

[訳者解説]

ガードナーの思想には、アメリカの神話学者ジョセフ・キャンベルの影響が強く見られます。本書のクライマックスである第12章237頁では、キャンベルの「生誕の再現」という言葉を引用して、自己革新の在り方について語っています。

キャンベルは古今東西のあらゆる神話を収集し、そこから人類の記憶ともいうべき共通のモチーフを抽出しました。名著『千の顔を持つ英雄』(ジョセフ・キャンベル著、平田武靖/浅輪幸夫監訳、人文書院、2004年)に影響を受けたジョージ・ルーカスが、「旅立ち」、「通過儀礼」、「帰還」という英雄伝説のモチーフに着想を得て映画「スター・ウォーズ」を作ったことは、広く知られています。

アメリカの伝説的ジャーナリスト、ビル・モイヤーズとの素晴らしい対談集『神話の力』の中で、英雄が苦難の旅に出て、試練をくぐり抜ける意義について、キャンベルは次のように述べています。

もし人が真の問題はなんなのかを自覚したら――自我をなくし、自分より高い目的のために、あるいは他者のために自分を捧げたならば――そのこと自体が究極の試練だと悟るはずです。自我や自己保存を第一に考えることをやめたとき、私たちは、真に英雄的な意識変革を遂げるのです。
――『神話の力』ジョーゼフ・キャンベル/ビル・モイヤーズ著、飛田茂雄訳、早川書房、2010年、P268-269

キャンベルによれば、英雄とは未熟な自分と決別し、新しい自分に生まれ変わる、すなわち「生誕の再現を繰り返す」ことのできる自己革新の人です。

人々が英雄の物語に引きつけられるのは、英雄の行為が自己の欲求を超えた価値に対するものだからに他なりません。これは、私たち人類の記憶の中に刻まれていることなのです。

自己革新[新訳]
――成長しつづけるための考え方

Self-Renewal: The Individual and the Innovative Society

20世紀アメリカを代表する知識人として知られる
ジョン・ガードナーの代表作。

【著者】ジョン・W・ガードナー
【訳者】矢野陽一朗
【価格】1,500円+税




(C) EIJI PRESS