イノベーションが、穏やかな現状を打ち壊してしまうものであるというイメージは、現代の社会においては、特に不適切である。今日、技術的にも社会的にも騒々しいほど急速に進歩した現代社会において、穏やかな現状を見出すことなど、不可能であろう。今日の解決策は、明日には時代遅れになるだろう。今日均衡しているシステムは、明日にはバランスを失うだろう。変化する状況に対応するには、イノベーションが継続的に必要なのだ。
―― 第4章 P80

[訳者解説]

はじめに、『自己革新』の初版が発売された1964年に思いを馳せてみましょう。ビートルズが初来日し、東京オリンピックが開催、インターネットも携帯電話もなく、外国との通信には電報やテレックスを使っていた時代です。現代の私たちから見ると、ひどくスローペースに思われるこの時代ですら、ガードナーによれば「技術的にも社会的にも騒々しいほど急速に進歩」していたのです。21世紀を生きる私たちが経験している社会の変化が、いかに速いものであるかを実感できます。

「今日均衡しているシステムは、明日にはバランスを失う」という、変化に対するガードナーの危機感は、成功している企業の経営者が共通して抱いているものです。たとえば「ユニクロ」をグローバルで展開するファーストリテイリングの柳井正社長は「成功は一日で捨て去れ」と言っています。この危機感こそが、不断のイノベーションを通じて成長を続けるために必要なのでしょう。

一方でガードナーは、「変化という考えに魅了されるあまり、人類の歴史の要素として、継続性は悪いものではないが重要ではない、などという考えに陥らないよう警戒しなければならない」(P42)とも言っています。ガードナーによれば、「長期的な目的」と「価値」を継続することが大切であり、これが変化の方向性を決める上で重要な役割を果たすと説いています。

ファーストリテイリングは「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」という理念をもって「長期的な目的」と「価値」を規定し、会社の方向性を明確にしています。そして、その理念を実践するために、同社は素材、縫製、物流、店舗、広告宣伝など、企業活動のあらゆる局面でイノベーションを起こしつづけることを社員に求めているのです。

「長期的な目的」と「価値」を規定し、イノベーションを起こししつづける――これが、ガードナーが考える企業経営の在り方なのだと思います。

自己革新[新訳]
――成長しつづけるための考え方

Self-Renewal: The Individual and the Innovative Society

20世紀アメリカを代表する知識人として知られる
ジョン・ガードナーの代表作。

【著者】ジョン・W・ガードナー
【訳者】矢野陽一朗
【価格】1,500円+税




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