インタビュー 独学の「基本体系」をもっているか 三ツ松新

エネルギーはどこにあるのか?

エネルギーはどこにあるのか?

人を巻き込む力とは、言い換えれば政治力のこと。「あの人には協力したくない」というような、よくあるつまらない人間関係を打破するのも「政治力」です。

最近、「ビジネススクールでも『政治力』についてまともに研究したほうがいいのでは」、という声が上がってきています。僕もこれに関係するいくつかの文献を読みましたが、心理に深く関係する部分のために分類が難しく、対処策にこれぞというものはないようです。
体系化するならば、個人の能力と、その個人が集合した時にどんな相互作用が起きるのか、という双方を理解する必要があるでしょう。学問分野で考えると、かなり多岐に渡ります。

僕は大学では生化学や微生物を学んでいたので、脳科学や生理学、動物行動学にも関心があります。動物と人間の表情についての話なんて非常に面白い。ほんのわずか一瞬出てしまった表情が相手の気持ちに影響するといったことは、まさに政治力の話です。

また、ヒエラルキー(階層)というのは動物が群を維持するために必要なものとされています。人間界の政治力について考えるとなれば、動物学や生物学の方にまで話が広がるわけです。

ジェンダーや差別問題の文脈で「ガラスの天井」(組織内での明文化されていない昇進の制限)という言葉がありますが、この政治力の話も「ガラスの天井」につながります。
非常に頭が良くて能力があるのに、なぜか全然出世しない人っていますよね。そういう人はきっと、政治力、つまりは組織内の力学をうまく使えていない。組織のどこにエネルギーが集まっているのかが見えていないのです。

これが見えるのと見えないのとでは、立ち振る舞い方が大きく変わってきます。言い換えると、エネルギーの在りどころが分かればうまく人を巻き込める、ということです。だから、僕はこの領域を学ぶべきだと思いますし、そのうちMBAにも取り入れられていくだろうと思います。

整理することから学問は始まる

整理することから学問は始まる

まだ理解していないものを学ぶとき、まずは「体系とは何か」について考えることが重要です。そもそも学問というものは、整理整頓から入るものです。僕の場合、大学入学直後の必修科目に、「生物学1」という、ただひたすら分類する学問がありました。これがひたすら分類するだけで非常につまらなかった。
しかし、今思えば、これは「何を基準にして体系化するのか」を考える、非常に複雑で、深い作業だったのです。

今から30、40年程前の話ですが、当時マーケティングはサイエンスとして扱われていたようです。「マーケティングは科学だ」と。「商売なんて直感だよ!」というそれまでの意識に対抗するべく、そう言われ続けたのです。
日本でも、最も由緒あるマーケティングの学会は、「日本マーケティング・サイエンス学会」です。新しく生まれた概念であるマーケティングそのものを分類して体系化する、という過程が必要な時期だったのでしょう。

マーケティングの神様とも言われるコトラーは何がすごかったのかというと、混沌とした商売の世界を分類したことが評価されているのだと思います。誤解を恐れずに言えば、それしかしていません。大家と言われるけれど、彼が生み出したフレームワークが世界中で使われているというわけではない。
彼を著名にしたのは、その整理能力、つまりは分類能力です。

自分の知識をマッピングする

自分の知識をマッピングする

『Personal MBA』には、学びの体系が書かれています。自分で学びの体系をもっている人は、「これはこの領域に当てはまる」という位置づけができる。そうすると、本も文脈をもって読めるわけです。

カウフマンは、その体系構築をすることに秀でていますね。体系のベースとなる階層構造、ピラミッド構造を作ることは、ロジカルシンキングそのものですし、P&Gにおける仕事の基本メソッド、「オブジェクティブ思考」にもつながります。
これは目的を明確にし、それを達成するための目標値を決め、戦略を練り、アクションプランを出すという思考法です。P&Gではこの思考法に沿って事業が行われますが、これは自分の勉強や日常生活の効率化に応用させても大いに役立ちます。

カウフマンがPersonal MBAのサイトを始めた頃から、学びの環境はずいぶん変化しました。インターネットの整備が進み、ありとあらゆるものを閲覧出来るようになり、環境は圧倒的に有利です。しかし、情報氾濫期と言われる今こそ、体系を理解することが大切だと言えます。
そもそもビジネスという学問はどういう体系なのか、『Personal MBA』のまえがきにも書いた通り、「MBAとはそもそも何か」と自分自身に問うことが重要です。

「僕はファイナンスが弱いから、ファイナンスから学んでみる」ではなく、まずは自分の知識の構造をマップにしてみる。ここではこの本や別の領域の参考書などをヒントに自分なりの体系を構築してみることが必要です。
現段階の自分はどこにいるのかを認識し、これから埋めないといけない領域を見つけるのです。そうでないと立ち止まったりモレが生じたりしてしまいます。また、行き当たりばったりのやり方をすると失敗した時に路線変更が効かなくなり、諦めてしまう場合もある。

独学をするなら、まずは自分の領域を自分流に構築する。これが僕の考える独学の基本体系です。

独学における本の読み方

独学における本の読み方

独学に取り組む方に言いたいのは、「投資を惜しむな」ということです。

ビジネススクールや塾に通わずに1人で学ぶとなると、一般的には本を読むという手段をとると思いますが、本なんて安いものです。本は借りずに買いましょう。人から貰った本って読まないことが多いですよね。自分でお金を払って購入して読んでこそ、本は財産になる。
そして実際に読んでまるで分からなかったら、捨てればいい。捨てれば損をするのはお金だけです。無理して最後まで読んだら、時間まで損してしまいます。本当に使える本は10冊のうち1冊くらいのものです。

「理解不能な本は捨てろ」と言いましたが、では自分の手元にある本はどんな本かというと、表紙を見てなんとなく内容が分かったという本がある程度あります。面白いことに、本当に思った通りのことが書いてあって、途中でもういいやと思って読むのを止めても、なぜか手元に残しているんです。何かあった時に見たいというか……、辞書のようなものになっているのかもしれませんね。辞書って、「絶対に答えがこの中にある」と分かっているものです。だから、辞書を1ページ目からひたすら読む人なんてほぼいない。

僕にとっての「辞書のような」本の一部には、5年くらいかけて全部読み切っていたものもあります。この『Personal MBA』もそうした1冊かもしれません。
こうやって「気が付けば独学に役立っていた」ということもあるように、高いコストを払ってMBAを取りに行くというお決まりの勉強コース以外にも、独学を含め学びの道は数多くあるのです。

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プロフィール

三ツ松新(みつまつ・あらた)

イノベーション・コンサルタント。1967年神戸生まれ。幼少期をニューヨークで過ごす。神戸大学大学院農学研究科修了後、P&G入社。プロダクトマネジャーとして多くの新規商品、ブランドの立ち上げに携わる。グローバルプロジェクトにも参画、極東地域における特許出願件数歴代トップを記録した。独立後はイノヴェティカ・コンサルティング代表として、大手上場企業とベンチャー企業向けに創造的思考と新規事業開発のコンサルティング、研修を行う。『20歳のときに知っておきたかったこと』『未来を発明するためにいまできること』(以上、阪急コミュニケーションズ)の解説者。

三ツ松新(みつまつ・あらた)

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Personal MBA

Personal MBA

ジョシュ・カウフマン
三ツ松 新 監訳
渡部典子 訳

A5判変形 並製 本文488頁

本体価格2,600円+税

ISBN:978-4-86276-135-4 C0034

2012年8月10日発売
(地域によって多少差があります)

  • Amazon.co.jp
  • 英治出版オンラインストア
目次 THE HUMAN MIND
第7章 人の心を理解する
監訳者まえがき 「自己教育」の時代(三ツ松新) WORKING WITH YOURSELF
第8章 自分と上手につきあう
WHY READ THIS BOOK?
第1章 本書を読む理由
WORKING WITH OTHERS
第9章 他の人とうまく協業する
VALUE CREATION
第2章 価値創造
UNDERSTANDING SYSTEMS
第10章 システムを理解する
MARKETING
第3章 マーケティング
ANALYZING SYSTEMS
第11章 システムを分析する
SALES
第4章 販売
IMPROVING SYSTEMS
第12章 システムを改善する
VALUE DELIVERY
第5章 価値提供
訳者あとがき
FINANCE
第6章 ファイナンス
付録
学び続ける人の厳選ビジネス書99
  • インタビュー 識者が語るPersonalMBA 土井英司
  • インタビュー 識者が語るPersonalMBA 小山龍介
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