インタビュー 独学の「基本体系」をもっているか 三ツ松新

なぜ、MBAを取りにいくのか

なぜ、MBAを取りにいくのか

今でこそ、MBAホルダー(MBA取得者)の就職先の一番人気にGoogle社が挙げられているそうですが、かつてMBAホルダーの就職先の大半は「金融系」と「コンサルティング」でした。なぜこの2種に偏るのかという意見は様々ですが、「MBA取得の学費が高いのでそのリターンを得るため」という理由は外せないでしょう。
要するに、「超高給の職種でないと投資の元が取れない」ということです。

そもそも、なぜMBAを取りにいくのでしょうか。
その目的は人それぞれだと思いますが、僕としてはMBAを取得した後に過ごす時間こそがポイントだと思っています。留学で得た知識はいずれ古くなりますし、ケーススタディだって汎用性がなくなるかもしれません。

MBAで得た知識そのものが数年後に効いてくるというよりは、その知識があることによって、知識を得ていなかった時とは違うその後の10年を歩むようになる、ということを重視すべきです。
スポーツでも、最初に自己流でやり始めて試行錯誤しながら10年続けるのと、最初にしっかり達人に「型」を習ってから修練するのとではその結果はまったく違うでしょう。『Personal MBA』の著者であるカウフマンの場合、学部時代に経営学を学んでいてある程度の「型」ができていたからこそ、自己流の工夫が活きたといえるのだと思います。

僕は、MBAの投資に対する回収期間を5年や10年とずいぶん短期で考えている人が多いと感じています。仕事をストップしてフルタイムで留学するとなると、留学期間中の機会損失も含めて何千万円というコストがかかります。超高給の職種に就いてこの分を回収しようとしても、想像以上にきついはずです。

もし、これでMBAのローン返済のために働く、なんてことになれば本末転倒ですよね。だから、留学という投資リターンの回収は、「なぜMBAを取りにいく(いった)のか」という原点に立ち返り、「お金」でその効果を計らずにその後の時間、つまり「質」に焦点を当てて見込むべきだと思います。

起業家精神は自分で生む。

起業家精神は自分で生む。

僕は、大学の農学部を卒業してからP&Gに入社し、今は独立して経営コンサルタントをしています。その関係で、英国国立ウェールズ大学MBA大阪校でマーケティングコースを教えていましたが、僕自身はMBAホルダーではありません。
P&G入社後にMBA取得を考えたこともありましたが、やめたのです。それは、昔から起業・独立したいと思っていたため、数千万円のコストはMBA取得より起業資金にした方がいい、と思ったからです。
社内でMBAホルダーの人に話を聞いた時、ディスカッションや実践の機会も含めて、MBAのプログラム内容はP&Gでの教育で十分じゃないか、と思えたのです。

はたから見て、MBAを取得しに行く人には起業家精神をもつ人が多い気がします。
起業家精神とは、「やりたいことを責任もってやろうとする精神」。起業や新規事業開拓の夢を持っている人は、この精神が強い人でしょう。彼らは日常生活を送る中で社会との接点が多かったり、違和感を認知したりすることで、自らその精神を生み出しています。「こうしたい」というポジティブなものもあれば、「こうはなりたくない」というネガティブなものもあり、それはどちらも起業家精神です。

「日常という環境を整備する」という意味でビジネススクールは刺激になりうるかもしれませんが、その精神そのものを教わることはできません。だから、その責任感は非常に貴重なものだし、それに付随する行動には強い芯があります。何か壁にぶつかったとしても、それは起業家精神をもつ人にとっては水や空気のように当たり前に存在するものであり、彼らはそれに構うことなく進み続けるでしょう。
自発的な起業家精神は、起業や独学を含め、何か新しいことをする際に必要なものであることに間違いありません。

「まるごとの仕事」が人を育てる

「まるごとの仕事」が人を育てる

カウフマンと僕が在籍していたP&Gでは、採用時に重要視する部分が2点あります。

1つは問題解決能力。つまりはロジカルにものを見られるか、という点です。もう1つは、人をうまく巻き込めるかという点。何かを解決しようとした時、最初に問題を特定しいくつかの解決策を立てるわけですが、1人ですべてを行うことはできませんから、他者の協力がないと前に進めません。そこで人を巻き込む能力が重要になってきます。

問題解決能力のレベルはある一定以上あれば良く、天才的なものを求めているわけではありません。もし問題の特定さえ難しい問題だとしたら、それは専門家に任せるべき案件です。問題解決能力は、後天的に強化していくのが難しい能力ですが、人を巻き込む能力はその人がおかれた環境によって大きく変化します。

P&Gの新入社員は、入社3カ月~半年くらいですぐに、プロジェクトの一部を切り取ってまるごと任されます。小さくても1つのプロジェクトを包括的に手がけることで、責任感が生まれるのです。P&Gでは完全な事業部制をとっているのでこうしたやり方ができるのですが、切り分けの難しい重厚長大産業の企業では、このやり方は難しいでしょうね。
P&Gは周囲から「人材育成がうまい」と評価を得ている会社ですが、企業の規模の割に小さなプロジェクトがたくさんあるから、権限移譲がしやすく、結果として人が育ちやすい側面があるでしょう。

「これは自分自身の課題だ」と自発的に責任をもつ態度のことを「オーナーシップ」と言いますが、権限移譲がされた環境ではこの「オーナーシップ」が育まれやすい。このオーナーシップは先ほどの起業家精神とも通じるものです。
そこから人を巻き込む「リーダーシップ」のある人材がどんどん輩出され、大きなプロジェクトが行われるようになるのです。

  • 1
  • 2

プロフィール

三ツ松新(みつまつ・あらた)

イノベーション・コンサルタント。1967年神戸生まれ。幼少期をニューヨークで過ごす。神戸大学大学院農学研究科修了後、P&G入社。プロダクトマネジャーとして多くの新規商品、ブランドの立ち上げに携わる。グローバルプロジェクトにも参画、極東地域における特許出願件数歴代トップを記録した。独立後はイノヴェティカ・コンサルティング代表として、大手上場企業とベンチャー企業向けに創造的思考と新規事業開発のコンサルティング、研修を行う。『20歳のときに知っておきたかったこと』『未来を発明するためにいまできること』(以上、阪急コミュニケーションズ)の解説者。

三ツ松新(みつまつ・あらた)

ページTOPへ▲

Personal MBA

Personal MBA

ジョシュ・カウフマン
三ツ松 新 監訳
渡部典子 訳

A5判変形 並製 本文488頁

本体価格2,600円+税

ISBN:978-4-86276-135-4 C0034

2012年8月10日発売
(地域によって多少差があります)

  • Amazon.co.jp
  • 英治出版オンラインストア
目次 THE HUMAN MIND
第7章 人の心を理解する
監訳者まえがき 「自己教育」の時代(三ツ松新) WORKING WITH YOURSELF
第8章 自分と上手につきあう
WHY READ THIS BOOK?
第1章 本書を読む理由
WORKING WITH OTHERS
第9章 他の人とうまく協業する
VALUE CREATION
第2章 価値創造
UNDERSTANDING SYSTEMS
第10章 システムを理解する
MARKETING
第3章 マーケティング
ANALYZING SYSTEMS
第11章 システムを分析する
SALES
第4章 販売
IMPROVING SYSTEMS
第12章 システムを改善する
VALUE DELIVERY
第5章 価値提供
訳者あとがき
FINANCE
第6章 ファイナンス
付録
学び続ける人の厳選ビジネス書99
  • インタビュー 識者が語るPersonalMBA 土井英司
  • インタビュー 識者が語るPersonalMBA 小山龍介
  • インタビュー 識者が語るPersonalMBA 三ツ松新
  • Facebook PersonalMBAで学ぶ会 Powerd by TAM