第24回 『ヴィック・ムニーズ/ごみアートの奇跡』


ブラジル出身の現代アーティストのヴィック・ムニーズが、リオ・デ・ジャネイロ郊外にある世界最大のごみ処理場「ジャウジン・グラマーショ」に向かった。そこで働くリサイクル可能な素材を拾い集める「カタドール」と呼ばれる人々とともに、ごみを再利用してアートをつくるためだ。ムニーズのアート・プロジェクトがカタドールたちに起こした化学反応をとくとご覧あれ!

7月20日よりロードショー

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アートの持つ「変容(トランスフォーメーション)」の力

長年携わった人道援助の現場では、とかく食糧や水などの支援物資の提供や、住まいや医療サービスの提供などが優先されがちですが、個人的にこだわって大切にしてきたことがあります。それは、音楽やアートやスポーツなどを通じて、人々の心を癒し、かつ豊かにする活動です。

好き、楽しいという感情を大切にすることで、寂しさや絶望やささくれだった気持ちを落ち着けることができます。あまりお金を掛けずに実行できるアート・プロジェクトから、難民キャンプの中の看板や建物の壁に絵を描くアーティストやお祭りで演奏するミュージシャンも生まれ、誇りと自信につながります。

ブラジルの貧しい家庭出身のヴィック・ムニーズは、若い頃に喧嘩の仲裁に入った際に脚を銃で撃たれ、その賠償金で渡米し、アーティストになりました。砂糖やチョコレートシロップなど意外な素材を生かした大胆な芸術作品を創作し、「変容(トランスフォーメーション)」にこだわって活動しています。それはアートによるものの変容であり、人の変化でもあるのです。

©Vik Muniz Studio

 

ごみ山に蟻のように群がるカタドールたち

3年かけて撮影された本作は、ヴィック・ムニーズが活動拠点のニューヨークから故郷ブラジルに飛び、リオ郊外にある世界最大のごみ処理場「ジャウジン・グラマーショ」で、リサイクル可能な素材を拾い集める「カタドール」と呼ばれる人々とともに、ごみアートを作る軌跡を追ったドキュメンタリー映画です。

毎日7000トンものごみが運び込まれ、至るところからメタンガスが立ち昇るという劣悪な環境の中、カタドールたちはごみ山に蟻のように群がって、金属スクラップやペット・ボトルなどリサイクル可能な素材を集め、販売することで生計を立てています。その数、およそ3000人。

住まいはごみ処理場の周りを取り囲むスラム。「我々はごみを集めているんじゃない。リサイクル可能な資源を集めているんだ」と仕事に誇りを持つものの、麻薬・売春・暴力が蔓延する不衛生なスラムという社会の底辺に追いやられ、将来が描けずに葛藤します。

ムニーズは、ごみ処理場で集めたガラクタを使って、カタドールの巨大ポートレートのモザイク画を彼らと一緒に制作するアート・プロジェクトを通じ、彼らの人生を変えたいと願いますが……。

©Vik Muniz Studio

 

「におい立つ」ような映像が、そこに生きる人を描く

ごみ山の腐臭や湿気、ほこりが昇り立つような映像が印象的です。

あちこちに吹き上がるメタノールガスで、景色がゆがんで見えます。そして、マスクもせずに、その巨大な山にタックルしていくカタドールたちは、まるで勇猛な戦士のよう。

ムニーズは「当初は風景を描くつもりだった」と語っています。

それが実際に現場に足を運んでみると、「人と交わり、人を描かざるを得ない」と気持ちが変わっていったのです。映画はムニーズの関心に寄り添いながら、ポートレートの主人公たち一人ひとりのストーリーを追います。

中心人物のチャオは、カタドールたちの生活向上を訴える団体をつくり、代表を務めます。

レニー・クラヴィッツにも似た風貌でカリスマ性あふれる彼は11歳の頃からごみを拾い、生計を立ててきました。

ネタバレになるので詳しくは書きませんが、このチャオのポートレート作品がロンドンで競売に掛けられることになり、ムニーズはその場に立ち会わせるためにチャオをロンドンに連れていきます。カタドールたちの作品を世界がどう評価するかをこの目で確かめ、自分たちを見つめ直すきっかけにしてほしい、との望みからでした。

アーティストの熱意が化学反応を起こす

ムニーズは、チャオをロンドンに連れていくことを迷っていました。今いる環境からあまりにもかけ離れた世界に連れていき、彼の価値観が変わったとしても、それに責任を持てるだろうか。プロジェクト後にチャオが元の生活に戻ることを躊躇したらどうすればいいのだろう……。

でも、「ほんの一瞬でもいい、別の世界を体験して欲しい」と願うムニーズは、「変容」こそがこのプロジェクトの狙いだと、ロンドン行きを決行します。

チャオの絵が高額で落札されたに留まらず、リオでのごみアートのムニーズの個展は大ヒットを記録し、ムニーズ自身にも「変容」をもたらします。カタドールたちとの出会いを振り返るムニーズは言います。

「人助けのつもりが、自分の方が彼らに助けられていた」。

それは、私自身がこれまで手掛けてきた人道援助の仕事にも通じるものです。

©Vik Muniz Studio

ジャウジン・グラマーショ閉鎖という変容

映画のラストが伝える主人公たちの「その後」から、このアート・プロジェクトの持つチカラを再認識しました。

2012年に国連の環境会議「リオ+20」が開かれたのに伴い、30数年をかけた「ジャウジン・グラマーショ」の閉鎖が実現したのです。

ブラジル政府はリサイクル制度を推進し、チャオはごみアートの落札で得た収益を活用して、カタドールたちが他の仕事を得られるように職業訓練などを呼び掛け、活躍しています。

一歩を踏み出すことに背中を押すような、さわやかな余韻が残る力作です!


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