第19回 『孤独な天使たち』


車イス生活を余儀なくされ、一度は映画製作を続けることを諦めかけたベルトルッチの復活作品。車イスとともに生きることを受け入れたことで、映画作りへの情熱に再び燃えた監督の10年ぶりの新作『孤独な天使たち』は、子どもと大人のはざまで苦悶する少年が大人に成長する地下室での7日間を描く。ベルトルッチ自身の「自分再発見」ともダブる青春の物語は、監督デビュー50周年のメモリアルを飾る。

公開中

公式サイトはこちら

10年ぶりのベルトルッチ作品

私は乗せられやすい性質かもしれません。

アカデミー賞10部門を制したベルトルッチ『ラストエンペラー』 を観た後、無性に中華料理が食べたくなって中華レストランに駆け込み、おまけに中国旅行までして撮影の舞台となった紫禁城を探訪してしまいました。

ここまで乗せてくれたベルトルッチですが、「最近彼の撮った映画を見かけないなあ」と思っていたところ、10年ぶりの新作が公開されるというのです。病魔に苦しみ、車イスなしには動き回れなくなった監督の復活作品は、30年ぶりに母語のイタリア語で撮った『孤独な天使たち』

©2012 Fiction - Wildside

そうか、「国際派になる」ということは、オーディエンスについて自国中心で考えるか、世界標準にするかというせめぎ合いがあるのね、と妙に納得。

舞台も彼が育ったイタリアのローマ。その意味でベルトルッチは齢70を超え、改めて本卦還りしているのかもしれません。

「大人への脱皮」という世界共通のテーマを描く

ストーリーを簡単にご紹介しましょう。

自分の殻に閉じこもりがちで学校にもなじめず、現実逃避するロレンツォは14歳。人づきあいが極端に下手なロレンツォが学校の1週間のスキー合宿に参加すると言ったことに、母親は大喜び。留守がちな夫に電話で報告しますが、実はスキー合宿に行くというのは真っ赤な嘘で、ロレンツォはひそかな計画を立てていたのです。

©2012 Fiction - Wildside

スキー合宿へのバスの出発地点から姿をくらまし、あらかじめ食糧や水を買い込んで備えておいた自宅アパートの地下室に身を隠して、好きな本や音楽に囲まれた1週間の自由を満喫するつもりだったのです。

上々にスタートしたかに見えたロレンツォの冒険は、2日目に突然、長い間会っていなかった異母姉のオリヴィアが地下室に闖入してきたことで脱線してしまいます。美しくも奔放なオリヴィアは、父が南部シシリアのオリヴィアと靴職人の母親を捨て、都会のローマでロレンツォと母親との暮らしを選んだことから、屈折した感情をロレンツォの母親に抱いていました。

ロレンツォは折角の自由をかき乱されて苛立ちますが、オリヴィアは他に行き場所がなく、地下室を舞台に2人の共同生活がはじまります。

©2012 Fiction - Wildside

麻薬依存症に陥っていたオリヴィアは苦しいヤク断ちの真っ最中。嘔吐を繰り返して悶え苦しむ姉を、ロレンツォは助けようと必死に考えるのでした……。

外界から隔絶された「地下室」という閉じた空間を舞台に、濃密な1週間を姉とともに経験した少年は、大人への脱皮と再生への手がかりをつかむのです。

デヴィッド・ボウイが少年の心をイタリア語で歌う

タイトル明け、映画はセラピーのシーンからはじまります。どんよりと曇った目をしたロレンツォに向き合うのは、車イスに座った精神科医。少年は精神科医の質問をはぐらかし、ザ・キュアーの名曲「ボーイズ・ドント・クライ」が響く中、自分の世界に消えてしまいます。監督はこのあたりに自分を暗示したかったのかもしれません。

そして、クライマックス。反発し合っていた姉と弟が奇妙な共同生活を経てようやく心を開き始め、デヴィッド・ボウイの曲に身を委ねて、ダンスしながら抱擁。こ、こ、これは……!

ボウイ自らが「スペイス・オディティ」をイタリア語で歌っているのです。「私もドラッグをやめるから、ロレンツォももう隠れるのはやめて。たまに打ちのめされたって平気よ」とオリヴィアが諭すようにささやきます。

©2012 Fiction - Wildside

そして、心の絆を確かめるダンスを踊った翌朝、新しい日々を送ろうと姉を連れて地下室から街に出たロレンツォの眼差しは、精神科医の診察室で見せたうつろな表情とはまるで別人のように、しっかりと自信に満ち溢れたものになっているのです。

映画を通じて、「一人の少年の脱皮と成長」を見届けた気にさせてくれます。

「スペース・オディティ」のオリジナルの歌詞はSF的なのですが、イタリア語版は「孤独な少年よ、教えてくれ、どこに行こうとしているのか」と問いかけ、まさにロレンツォの心の軌跡を歌ったもののようです。

この曲を70年代に聴き、80年代にはデヴィッド・ボウイのコンサートに行っていた私にとって、この名曲に新しいいのちが吹き込まれるのを見るだけでも幸せでした。

失意からの再起

マエストロの復活、ベテラン監督の手による新人俳優の起用と色あせない永遠のテーマ、そして時代を越えた名曲。

車イスに座ったままでしか監督できなくなったベルトルッチがあまり動かずに座ったまま指揮を取れる「地下室」という場面設定は、姉と弟の反発と親密をより浮かび上がらせることに成功しています。それは監督自身にとって、「自分再発見」だったのかもしれません。

「この映画を撮影した私は、また自分が走り出したことを感じている。私は70歳を超えたが、今も若いキャラクターや彼らの生命力や好奇心を捉える難しさに魅了され続けているのだ」

そう語るマエストロの復活をご堪能あれ!


This entry was posted in #kaorueiga. Bookmark the permalink.

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です