第18回 『カルテット! 人生のオペラハウス』


名優ダスティン・ホフマンの初監督作品は、引退した音楽家たちが暮らす老人ホームが舞台。肉体は衰えても音楽や愛が人生を彩ってくれる、というメッセージ溢れる人間賛歌を75歳で監督に挑むホフマンが描きます。イギリスが誇る著名な老アーティストたちが出演して名曲を演奏し、音楽好きにはたまらない作品です!

4月19日よりロードショー

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75歳にして新境地に挑戦するダスティン・ホフマン

監督業も務める名優というと、クリント・イーストウッド、ロバート・レッドフォード、そして『アルゴ』で今年のアカデミー賞作品賞を獲得したベン・アフレックなどが挙げられますが、『卒業』『クレイマー、クレイマ-』『レインマン 』など数々の名演で知られるダスティン・ホフマンは、75歳にしてようやく初監督作品を発表しました。

彼の新境地を開いた『カルテット! 人生のオペラハウス』は、イギリスののどかな田園風景の真っ只中にある、引退した音楽家たちのための老人ホーム「ビーチャム・ハウス」を舞台に、ホフマンの同世代のアーティストたちの人生との付き合い方を描きます。

©Headline Pictures (Quartet) Limited and the British Broadcasting Corporation 2012

 

老人ホーム存亡をかけ、伝説のカルテットが復活?

「ビーチャム・ハウス」で穏やかに暮らすレジー、ウィルフ、そしてシシーの3人の声楽家は、かつて同じカルテットで歌っていた仲間です。

理知的なレジーは近隣の学生たちに音楽を教えることを、冗談好きのウィルフはホームの女性スタッフたちを口説くのをそれぞれ生き甲斐にし、そしてシシーは物忘れが目立ち、認知症が進んでいるようです。

財政難にあえぐ「ビーチャム・ハウス」を存続させるために、このホームに住む老アーチストたちはヴェルディ生誕200周年を祝うコンサートをホームで開いて資金調達することを計画し、練習に余念がありません。

そこに新しい住人が加わることになるのですが、それはオペラの名プリマドンナとして活躍したソプラノ歌手のジーン(マギー・スミス、ハリー・ポッター」シリーズのマクゴナガル教授役で知られます)でした。

©Headline Pictures (Quartet) Limited and the British Broadcasting Corporation 2012

レジー、ウィルフ、シシーの3人は心穏やかではありません。と言うのも、ともにカルテットで歌っていたジーンは、野心のために仲間を傷つけ、そして夫だったレジーの心を引き裂いて去ったのです。

そしてコンサートの準備の方も、出演するはずだったスター・ソリストが病気で出られなくなり、暗雲が立ち込めます。代わりの目玉にと白羽の矢が立てられたのが、ジーンたちの「カルテット」でしたが、かつての栄光にがんじがらめになって人前で歌うことを封印していたジーン。彼女はかつての仲間と一緒に再び舞台の上に立てるのでしょうか……。

老アーティストによる競演、音楽への愛が映画の通奏低音に

完璧主義で知られるホフマンは、「ビーチャム・ハウス」の住人たちのキャスティングにこだわりを見せました。イギリスの老トップ音楽家たちを軒並み集めたのです。

役者が音楽家を演じるのでなく、音楽家が演じる。老齢のアーチストたちが歌い、演奏する味わいのある音楽も、この映画の見所の一つでしょう。足腰がおぼつかなくなった人たちも、ひとたび楽器を手にし、ピアノを前にし、衣装を身に付けると別人に変身するのです。

映画公開に先駆けて21年ぶりに来日したホフマンは、演技経験のないミュージシャンたちに「演技は全くしないでいいから、今感じていることをそのまま撮りましょう」とアドバイスしたと話し、「年をとるとはどういうことか、そのまま見せたかった」と語りました。

「彼らが長時間の撮影にも参加してくれて、素晴らしい贈り物を受け取った気持ち。感動しました」と瞳を潤ませる場面もありました。

©Headline Pictures (Quartet) Limited and the British Broadcasting Corporation 2012

 

人生の最終章に彩りを与える彼らの音楽には、壮年期の音楽とはまた違った深い味わいがあるように感じます。それは、「音楽があれば、人生はいくつになっても楽しめる」と言っているかのようです。

そして、体の中に刷り込まれた習性と、舞台の上で拍手を受ける快感は、いくつになっても消えることはありません。

ホフマン自身がもっと若かったら、こんなメッセージに果たして到達していただろうかと思わずにはいられません。彼は5歳からピアノのレッスンを受け、演技の勉強を始める前はジャズ・ピアニストになるのが夢だったそうで、音楽への愛がこの映画の通奏低音として流れているように感じます。

また、認知症を進行させるシシーには、身につまされるものがあります。ホフマンは『レインマン』で自閉症の主人公を演じましたが、こうした病気に直面する人へのまなざしに温かいものを感じました。

ヴェルディの「音楽家のための憩いの家」という遺産

この映画は、1896年にヴェルディがミラノに創った音楽家のための老人ホーム「音楽家のための憩いの家」からインスピレーションを得ています。

数々のオペラを作曲し、名声を得たヴェルディですが、他の音楽家たちの恵まれない最期を憂慮して、音楽家たちが最期まで尊厳をもって音楽に向かい合えるように、私費を投じて創設しました。音楽練習室とホールがあり、施設の運営はヴェルディの没後50年間は彼が作曲した音楽の著作権料で賄われ、現在は施設利用料と寄付で運営されているそうです。この家のことは、2001年にNHKスペシャル「人生を奏でる家~ミラノ・老音楽家たちの日々~」でも取り上げられています。

映画『カルテット!』でも老音楽家たちが子どもたちに音楽を教えるシーンがありますが、「憩いの家」では近年音楽学校生の入居を受け入れ、映画のシーンさながらのレッスンや元トップ・アーチストたちとの音楽交流が日夜行われているそうです。

今年はヴェルディ生誕200周年で日本でもヴェルディのオペラが多数上演されますが、こんなヴェルディの心意気も思い出していただければと思います!


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