第16回 『シュガーマン 奇跡に愛された男』


信じた道をひるまず地道に歩めば、いつかは世界が開ける―-せちがらい世の中だからこそ不器用なミュージシャンの不屈の物語が一層心に染みる。「人生、捨てたものじゃない」と思わせてくれる、第85回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞に輝いた大人のためのおとぎ話をどうぞ!

サンダンス映画祭 ワールドシネマドキュメンタリー部門・審査員特別賞&観客賞

米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞

2013年3月16日からロードショー

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表現者の悲哀

会社や組織を離れて、フリーで執筆したり表現したりすることを仕事にするようになり、何をするにもついて回ることがあります。

それは、ズバリ、「売れるか、売れないか」。

いくら自信作を表現者として世に出しても、それがマーケットから評価されて売れなければ、今後につながらないという厳しい現実があります。

私も自分が書いた本の売れ行きや出演した番組の視聴率が気にならない、と言ったらウソになります。

コツコツ表現し続けていくことこそが大切だと信じて、マイペースで行こうと思ってはいますが。トホホ……。

そんな表現の世界に身を置くようになった私を、一筋の希望の光のように励ましてくれる、そんな温かなドキュメンタリー映画に出会いました。

それが『シュガーマン 奇跡に愛された男』

field Pictures / The Documentary Company 2012

才能にも関わらず売れなかったために忽然と姿を消したミュージシャンをめぐる、夢と希望の物語です

賞レースを勝ち抜いて見事先日のアカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を獲得したのですから、さらに励まされます!

地球の裏側で一大ムーブメントに

マーケットから厳しい評価を突き付けられ、葬り去られたミュージシャンがいました。その名はロドリゲス。

1960年代後期のアメリカ・ミシガン州の自動車の街デトロイトのバーやクラブで、市井の人々の姿をつづった歌を演奏しているうちに、音楽プロデューサーの目に留まってデビュー。

『シュガーマン』は彼の一曲のタイトルから取ったものですが、「シュガー」とはスラングで麻薬・コカイン・ヘロインのことです。

ield Pictures / The Documentary Company 2012

吟遊詩人ボブ・ディランと並び評されるなど期待を集め、レコードを2枚発表しましたが、泣かず飛ばずに終わってしまいます。

結局音楽レーベルからも契約を解除され、ロドリゲスは音楽シーンから完全に姿をくらまし、彼の消息は途絶えます。

しかし、彼は知りませんでした。

地球の裏側の南アフリカで、彼の音楽が驚異的にヒットしていたことを。

本国アメリカではまったく見向きもされなかったロドリゲスの音楽は、アパルトヘイト政策で世界から孤立していた南アフリカで口コミによって広まり、アルバムセールス50万枚以上という人気となったのです。

彼はエルビス・プレスリーやローリング・ストーンズ、ビートルズ以上の大物として認知され、彼の反体制的な歌詞は、南アフリカで反アパルトヘイト運動を展開する若者たちを精神的に支える音楽になっていきました。

しかし、ロドリゲスには印税も一切支払われませんでした。ロドリゲスの存在は謎に包まれ、情報もまったくないまま、彼の音楽だけが一人歩きしていたのです。

ファンの執念とロドリゲスの地道な努力が奇跡を起こす

「ロドリゲス死亡」にまつわる様々な噂が飛び交う中、南アフリカの熱狂的なファン2人がその真偽を突きとめようと、個人的な興味から調査に立ち上がります。執念とも言えるリサーチの結果、彼らは衝撃的な真実にぶつかり、狂喜乱舞します。

まさに「dream come true」でした。

ネタバレになってはいけないので、ここから先は詳しくは書きません。

私は、この映画に引き込まれ、サスペンスにも似た大どんでん返しに、鳥肌が立ちました。

ぜひ映画館で、この映画のあたたかな通奏低音に触れてほしいと思います。「この世の中、捨てたものじゃない」と勇気づけられます。

観客が感情をあまり表さない日本では珍しいことだと思いますが、試写会では上映終了後に客席から自然と拍手が沸き起こりました。

ロドリゲスのように、地道に信じた道を、自分の理想に誠実にコツコツと歩みを続けていけば、きっといつかは何かにつながる。

そんなことを思わせてくれる映画です。

音楽好きがつくった映画

この映画、ロドリゲスのつくった作品世界や、彼の音楽に関わった音楽業界の関係者、そして熱狂的なファンの視点が、いずれもとても情熱的に、丁寧かつぬくもりをもって描かれているのが印象的です。

ひと目で「音楽好きの人が作った映画だろうな」と思いました。

スウェーデン人のマリク・ベンジェルール監督のプロフィールを見て大納得。

ミュージシャンとして活動後、ドイツのクラフトワークのドキュメンタリーや、ビョーク、スティング、エルトン・ジョン、U2、マドンナ、カイリー・ミノーグ、プリンスなど有名アーチストのドキュメンタリーを製作するという、大の音楽通なのです。

音楽を軸に、ロドリゲスのみならず、彼に関わった、パッションあふれる人々の息遣いが聞こえるような作品。

ちなみに、この映画のサウンドトラックが発売され、その印税はちゃんとロドリゲスに支払われているそうです!

大人のメルヘンをどうぞ劇場でご堪能あれ!


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