第13回 『カラカラ』


カナダ人男性と沖縄在住の日本人の主婦が沖縄を一緒に旅をする。妻・夫・子ども、自分のすぐそばにいる人とはなかなかわかり合えないのに、相手が「異なる者」だからこそ、お互いを知ろう、理解しようとする2人。今年は沖縄をぶらり一人旅してみよう―-。そんな気持ちにさせてくれる、オトナのための、国籍不明の渋いロードムービー。

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モントリオール世界映画祭ダブル受賞の腕前

またしてもカナダ人ケベック州出身の監督の優しい目線にやられてしまいました。

この映画コラムの連載でカナダのケベック人の監督の作品を取り上げるのは、『ぼくたちのムッシュ・ラザール』、『灼熱の魂』についで3回目になります。何でなんだろう?!

私は決してカナダ政府の回し者ではないですし、監督の国籍を意識して作品をセレクトしているわけではないのに、妙に「波長」が合うのです。

©2012KARAKARA PARTNERS & ZUNO FILMS

カナダ人の元大学教授が沖縄を旅しながら、心の拠り所を求め歩くという映画『カラカラ』のクロード・ガニオン監督は、カナダと日本をベースに活動しています。

日本の良さをこんなにも何気なく引き出して、さらりとかろやかに美しく描けるのは、日本を奥の奥まで知っている人だからこそできたことなのでしょう。

モントリオール世界映画祭で、「世界に開かれた視点賞」と「観客賞」とをダブル受賞しただけの腕前です。日本映画でもなく、カナダ・ケベック映画でもなく、さしずめ「国籍不明」のロードムービーといったところでしょうか。

ふらり沖縄を旅したくなったときの、絶妙なガイドブック

誰しもが持っている戸惑いがあります。

――「気づいてみたら、これまでの人生、からっぽだった」

体裁を繕うために、忙しいふり、重要な仕事をしているふりをしているだけだ……。

©2012KARAKARA PARTNERS & ZUNO FILMS

 

こんなやるせなさは、洋の東西を問わず、万国共通に齢を重ねた人が抱く気持ちなのでしょう。

普段はこんな迷いをだましながら日々を送っていても、根源的な問題に愚直に向き合ってしまうことが、たまにあるでしょう。

思いもよらない人との出会いだったり、旅だったり。何かが引き金を引いて、素直に向き合えるようになる。

『カラカラ』の主人公、カナダ人で元大学教授のピエールは、気功のワークショップの合宿で沖縄を訪れ、1週間、一人で沖縄を旅するつもりでした。

それが、東京から移住してきた主婦の純子に通訳として助けてもらったことをきっかけに、2人は急接近。純子は夫の家庭内暴力を理由にプチ家出し、ピエールの旅に同行することになるのです。

国籍、年齢、性別、経歴とも異質な2人は、時に価値観が真っ向からぶつかり合ったり、時に素直になったりと、不思議なプロセスをたどりながら、お互いへの理解が深まっていきます。

そして、2人は、あまりお互いを知らない間柄だからこそ、旅先で、心地よく心を解放し、相手に、愚直な人生への問いかけに悩む自分の姿をさらすのです。

©2012KARAKARA PARTNERS & ZUNO FILMS

 

映画では、北米でもカナダ出身のピエールには理解できない、沖縄をすみずみまで浸食している米軍基地の問題や、人間国宝・平良敏子さんらによって昔ながらの方法で作られている芭蕉布、三線の音と琉球の音階、泡盛の宴と泡盛を入れる「カラカラ」と呼ばれる陶器のとっくりなど、沖縄のスケッチが絶妙の間合いで、押しつけがましさなく、さりげなく描き込まれます。

そう、あくまでも、さらりと。

どう受け止めるかの判断はすべて観客に委ねて。

すがすがしい映像美もあり、きままな一人旅向けのガイドブックのようです。

健やかに年を重ねる、ということ

ピエールは、沖縄に心穏やかに年を重ねることを求め、夫のDVに怯え苦しみながら暮らす純子は、自分らしく生きることを模索します。

旅先の島で純子は友人・明美の祖母「めかるおばあ」を訪ね、おばあの「後ろは向かないで前に進む」という言葉に感銘を受けます。

そして、ピエールは芭蕉布の工房で、柔軟な動きと、絶え間のない反復作業、そして自然と調和したリズムに引き込まれます。芭蕉布づくりを志そうとするピエールに、人間国宝として知られる熟練の織り職人の平良敏子さんは、こう語ります。

――人生、やり直すのに遅すぎることはないし、自分が行動を起こすのに遅すぎることはない。

2人のおばあちゃんの言葉は、不確かな時代を生きる私たちに勇気を与えてくれるものです。

国際派女優、工藤夕貴

この映画で、とても嬉しい発見がありました。工藤夕貴さんが世界を舞台に活躍する女優さんに立派に成長していた、ということです。

純子役を演じた工藤さんは、1989年にジム・ジャームッシュ監督のインディーズ映画『ミステリー・トレイン』に出演した頃から「気になる女優」になっていました。

日本映画はもちろん、『SAYURI』などのハリウッド映画にも出演し、国際派の道を確実に歩んでいましたが、本作では、夫からの暴力で自分を見失っている純子の微妙な心の揺れを見事に演じています。

©2012KARAKARA PARTNERS & ZUNO FILMS

ピエールと出会い、少しずつ自分を取り戻していくプロセスを、ちょっとした表情、目線で、さりげなく自然に見せてくれます。

 

工藤さんの公式ウェブサイトでは、モントリオール世界映画祭での舞台挨拶などの映像が見られますが、堂々と、ユーモアを交えながら英語で直接語りかける姿は、頼もしい限りです。

どんどん国際的に活躍して、国境を越えた普遍的なテーマについて発信してほしいと思わせる秀作です。


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