第8回 『ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ!』


『ファースト・ポジション』は12月、渋谷「Bunkamura ル・シネマ」などで公開

戦争や貧困に傷ついた子どもたちが、自分を極限まで追い込みながら踊ることで人間の尊厳と自分自身を取り戻していく。そして、踊りは、彼らがどん底から這い上がるための「将来へのチケット」を与えてくれる。自分を信じて踊る子どもたちのきらめきをご堪能あれ!

バレエの登竜門「ユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)」の舞台裏

今年はじめ、日本人の高校生の菅井円加さんが「ローザンヌ国際バレエコンクール」で1位に輝き、多くの日本のバレエ・ファンを沸かせました。

このローザンヌと並んで若手バレエ・ダンサーの登竜門として知られるのが、「ユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)」です。

毎年このコンクールには、世界中から約5000人、9歳から19歳までのダンサーが応募します。そして、日本をはじめとした世界各地の予選を勝ち抜いた数百名のダンサーが、ニューヨークの最終選考に臨むのです。

入賞すれば世界の名門バレエスクールへの奨学金やバレエ団入団が約束されるとあって、プロを夢見る新人たちがしのぎを削るのです。

©First Position Films LLC.

 

トップダンサーとその家族の物語

秋・冬のバレエ・シーズン真っ只中の12月から日本で劇場公開になる『ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ!』は、2010年のYAGPに挑んだ6人の子どもたちとその家族を追ったヒューマン・ドキュメンタリーです。

表舞台での鮮やかなダンス・シーンにうっとりしてしまいますが、やはり惹きつけられるのはキラキラした子ども一人ひとりの強靭な精神とその家族ドラマです。

遊びたい盛りの子どもたちが、憧れに少しでも近づきたい、という情熱に突き動かされ、厳しい練習に耐え、ギリギリの限界まで自分を追い込んでいきます。そして、多くの犠牲を払って献身的に支える家族の物語があります。

「家族のために踊る」というコロンビアの少年

6人の主人公の一人、南米コロンビア出身の16歳のジョアン・セバスチャンは、才能を見出され、一人親元を離れてアメリカに渡りました。

彼が踊るのは、ずばり「家族のため」。YAGPで入賞すれば、貧しい暮らしから這い上がり、家族を養う道が開けるからです。

ジョアンは、両親の収入の何十年分にもあたる奨学金獲得を目指し、成功への切符を手にしたい一心で異国でのレッスンに明け暮れます。ですが、そこにはまだ甘えたい子どもの顔も。母親恋しさについついコロンビアに電話をかけてしまいます。

YAGP最終選考を控えて帰郷し、飼っている鶏を絞めてつくったコロンビアの「おふくろの味」に、家族と一緒に舌鼓を打ち、「家族のために踊る」という気持ちを新たにするのでした。

私たちからはなかなか想像しえないハングリーさと決意が、ジョアン・セバスティアンの端正で甘いマスクをよぎります。

©First Position Films LLC.

アフリカ・シエラレオネの戦争孤児は、自分を取り戻すために踊る

ジョアン・セバスティアンが家族のために踊るなら、西アフリカのシエラレオネ出身で、アメリカ人家庭の養女になったミケーラは、「自分の尊厳」のために踊ります。内戦で両親を亡くし、シエラレオネの孤児院で育ちました。

「目の前で人が殺される」という凄まじい環境に加え、首から肩にかけて大きな白斑のあるミケーラは「悪魔の子」として虐げられ、孤児院でもないがしろにされていました。

ある日、ミケーラは、雑誌の表紙を飾ったバレリーナのあでやかな姿を目にします。このバレリーナの明るいイメージが、ずっと彼女」の心の支えとなりました。

ミケーラは4歳で養女としてアメリカに渡り、黒い肌と皮膚の斑点、低い身長と筋肉質というさまざまなハンデを跳ね返し、憧れの「バレリーナ」を目指します。新しい家族も、チュチュの肩の紐や下地が肌になじむように茶色に染めるなど、彼女を応援し、見守ります。

本番直前、ミケーラの足に異変が現れますが、強靭なメンタル力で乗り越える姿はさすが!

「生死の境目を見た人」の生命力を感じます。

©First Position Films LLC.

吉田都さんも子どもたちにエール

世界的なバレリーナであり、「国連難民親善アーチスト」でもある吉田都さんは、過酷なバレエ人生のスタート地点に立った『ファースト・ポジション』の主人公たちに、エールを送ります。

「世界共通であるバレエはどんな境遇の子供たちにも扉が開かれている。必要なのは決意と献身。ダンサー達の情熱とひたむきさに胸が熱くなった」

「バレエという美しい芸術とともに生きていける喜びは、その過酷さも忘れさせてくれる」

とも語る吉田さん、YAGPに賭ける子どもたちの姿と、御自身が歩んでこられた道とがだぶって見えたかもしれません。

後日談ですが、「白人中心」というバレエ・ダンサーの固定観念を、身を以て打ち破りたい、というミケーラの物語は『ファースト・ポジション』公開を機にマスコミで反響を呼び、多くの人々の共感を呼んでいます。

今年南アフリカのバレエ公演で踊り、故郷のアフリカでもデビューを果たしました。

公演の帰りにはシエラレオネに里帰りし、学校を訪れて女子生徒たちに夢を追いかけることの大切さを語りました。

「過去の自分の克服が出発点でしたが、今は目が将来に向いています」

CNNのインタビューでそう語るミケーラの新たな夢は、故郷シエラレオネにバレエ学校をつくることです。

©First Position Films LLC.

 

子どもたちの「本番力」に脱帽

私が何より「すごい」と思ったのは、『ファースト・ポジション』に登場する子どもたちが、YAGPという大会を目標にして燃え上がり、とてつもない集中力を発揮している姿でした。

「競争」というと、とかくギスギスした負の面ばかりが強調されがちですが、誰もが切磋琢磨する大会や競争はわかりやすい明確な目標設定になるのでしょう。

「練習は裏切らない」と信じて過酷な練習を積み、そしてチャンスをモノにする子どもたちの「本番力」が、何とも羨ましくなる映画です!


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